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総文も終わり、AO入試も終わり「今日は一生懸命文化祭用油絵書くぞー」と意気ごんだzuizuiですが自転車の鍵が無い

この暑さの中、吉祥院まで行く気なんて無い(zuizuiは花屋町、京都在住者でもわからない例え)

こんな時、泣いてもいいですか/時給800円

しょうもなさ100%、zuizuiです


さて

今日はひょうたんの日らしいです

そういえばこの前友達と喋っていて


zuizui「なんかさー、こんなヘボ絵が選ばれるなんてひょうたんから駒ちっくやわー」

友達「何言うてんねん、アホ」

zuizui「アホって……そりゃ使い方間違ってるかもしれんけど」

友達「……ああ、諺の方か」

zuizui「は?」

友達「いや、お前が『雹タンからコマ』って」



私、そんな痛い奴じゃない(真顔)




そりゃパソコンで一発変換で雹タンって出てきたけど彰藍じゃないからおおっぴらに『雹タン』とか言わない

そんな彼女の今一番のお気に入りはK´君

よくは知りませんが格闘キャラらしいです

そんな彼女にお盆に海に行こうといわれました

お前どんだけチャレンジャーなんだ



雹夢書きてー(いきなり)

いや、今のもいいんですが、死ぬほどかっこよく男の子より男の子っぽくていっつも男子制服を着て溶けそうなほど女の子と年下と双子の弟(太陽学園に在学)に甘く雹にめろめろで超絶テクニシャンで貧乳で何より嘘つきな女の子(身長180cm、わお)が主人公

立海大附属高校に通う16歳、部活は執行部(生徒部の下っ端、別名お仕置き部)

最近調子に乗っている太陽学園とジャスティス学園をどうにかして来いとお上(生徒会長)言われてやってきた

そこで雹と知り合ってなんとなく仲良くなる

主人公を知りたいと思う自分に戸惑う雹と、だんだん本音が隠せなくなって笑えないと思いながら笑う主人公

なんかダークだ、をい



そんなダークなSS(あ、でも雹は主人公を男って思ってます(何その乙女設定))











「明日世界がなくなるなら」



初めて恋をしたのは月の色をした髪だった

指の間を潜りぬけるようにさらさらと梳け掴もうとすればするりと逃げる長い髪

その(一種の芸術品かと思うくらいに)美しい髪を、そんなに括ったら髪痛むよ、と忠告したくなるくらい上で(これまた変な紐で)結い無造作に流している

よく見ればポニーティル、悪く見ればぶっちゃけ丁髷

せっかく綺麗な髪なのに、どうしてそんなにコミカルに走るのか(と思ったが彼は本気らしかった)

彼はよくわからない




「貴様は、どうする」


髪が時代錯誤なら服装も時代錯誤だ

彼の服装は軍服だった(しかも赤、恐ろしいことに制服)何故か脇には刀(ダンビラ、鞘無し)だった

金の肩当、金の紐、金のボタンが全部で5つ、きらきらひかってやけにきれい(後で聞けば純金製だった)

ぶっちゃけどんなに勇気のあるコスプレイヤーでもこんなにも奇異で目立って一歩外を歩けば銃刀法違反や不審者で警察に逮捕されちゃいそうな格好はしないだろう

そう考えれば彼は勇者なんだと私は勝手に理解したのだが、彼の夢は世界征服(らしい)で、世の中の愚民を一掃し優秀な人間だけを存在させるという結構具体的なものだった

置いといて、彼はそんな戦闘服(実は制服)で一回うちの学校にやってきたのだ

そのときの騒動は凄かった

生徒部および執行部、裏執行部、高等部の生徒会まで動き、収集がかかり、唯一の知り合いだった私は大変な思いをした、今でも泣きながら彼に「学校以外は私服を着ようよ」と訴えたのを夢を見る

そんなわけで彼の今日のスタイルは私服だった

少し大人びた黒のサマーセーターと真っ黒なズボン(靴下も丁寧に真っ黒)

なんだその黒尽くめ、夏の空に喧嘩を売っているのか、そして自分の白髪をどうおもっているのかと私は思った(しかし私はせっかく休日に多忙な彼に会えたのでただ「その格好も似合うよ」と笑っておいた(彼は少しだけ笑った))

彼はよくわからない

よくわからないから、冒頭の質問も、私にはさっぱり理解できなかった



「……雹、やっぱりその格好暑いんじゃないの?黒いし」

「……何がいいたい」


いや、だってさぁと私はそっぽを向く

ぶっちゃけ君、そんなロマンチックな性格じゃないでしょう、あつあつのカップルかと私は思ったが言わなかった(何故か彼は私のことを男と思っている、180mな自分を思えばわかるが髪は腰まである、まぁ今やどうでもいい)

私は何とか頭を絞り、まともな台詞を捜した


「……仮にも世界征服をライフワークに掲げる雹が消えるとか思っちゃいけないだろう、それとも何?雹的世界征服って滅亡系なの?」

「違う」


見つけた答えはあっさり切られた

私はめげずに進んでみた(きっと彼に悪気なんて無い)


「だったらなに?その後ろ向きに排他的で滅亡系なロマンチック疑問は」

「聞いてみたかっただけだ」



ふん、とそれだけ言って彼は横へ向いた(私が恋した白髪が揺れる)

嘘おっしゃい、と私は心の中で呟く

こんな物騒な世界、いつ自分に狂気にまみれたナイフが向けられるかもしれないということを考えれば彼の質問は真理をついていると思うがやはり少し首を傾げてしまう



明日死ぬなら(死ぬつもりなんて無い)

明日、死んでしまうなら(死にたく無い)



「なぁ雹、それって休日設定?平日設定?」

「平日」

「なら簡単だ、先ず10時くらいに起きる、世界最後の日くらい寝坊したいし、それからゆっくり登校して授業を受ける、世界最後の日に授業をやってくれるかは不安だがとりあえず、そして4時間目当りに早弁をする、朝ご飯食べる暇なさそうだし、昼休みには屋上で日向ぼっこして5時間目まで延長する、6時間目くらいはしっかり授業を受けて放課後は執行部へ行く、しっかり仕事して気に食わない部活の奴等を何回かボコってから帰る、その帰り道にジャスティス学園まで行って、雹に会いに行く」

「遅いぞ、最後の日くらいもっと早く会いに来い」

「その言葉をその時に聞けたら、世界くらいなくなっても悔いはないよ」


さらり、と私は雹の髪を指に絡めた

するすると逃げるように梳けていく

雹が、此方を向いていた



「ひねくれもの、お前の好きな弟や霧嶋に会わなくていいのか」

「雹に会ったあと、『遅いよ、ねぇさんのいけず……』とか言ってもらったらもう!!あと九朗に『べ、別に会いに来てもらわなくても良かったんですよ、最後の日まで先輩なんかに会いたいなんて思ってません』とか言われたらなくかもしれない!!」

「………」

「何、その目」



――手を伸ばし、琥珀をつかめ

沈黙を守り、偽造せよ

目を瞑るその瞬間まで




(待ち焦がれたお前を、簡単に放すと思っているのか)

(待ってくれるのかよ、弟や義弟や義父や義母にも会わず、ただ私を)



私は腕を伸ばし、彼の頭を抱いた

彼は何もせず、ただ花が綻ぶように笑った




(普段無口で笑わない癖に)

(どうして、今笑うのか)

(私にはさっぱりわからない)




「そう考えると、ますます欲しい」

「何が」

「世界」



勝手に終わられたら、困る

そう彼は笑った



(いや、そーゆー危ない思想が世界を一歩破滅に向かわすのじゃね?つーか雹私のことを男だと思ってんのになんで抱かれてるのか、もしかしてホモか雹よ、それはヤダなぁ危ないなぁ、この手を放しちゃおうか、ホモだったら嫌だし、つーか聞いてみようかこの際色んなの事、時代錯誤な髪型とか服装とかダンビラとか、やっぱ雹はわかんない、わかんないといえばどーして私は、こんな物凄い勢いで勘違い&世間知らずでアホなおぼっちゃマンが好)


そこまで思って、私は不思議そうに此方を見上げていた彼に誤魔化しの笑顔を返した



end




何を書きたくわからなかった……

女の子が一切かっこよくなく、雹がヘタレでもなくなり、ダークでもなくなった(をい)

精進するべー


(脱兎)
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学生時代より大分長くなった髪を黒いゴムで括り、石鹸で手を洗う

家庭科の実習じゃあるまいし、エプロンなんてつける必要なんてどこにもないのだが「忍足さん、エプロン、萌えー」と彼女が呟いたので鞄の中に入っていた(多分跡部あたりが入れた)新妻風フリフリエプロンをヤケクソでつける

おまけに三角巾でも巻いてやろうかと思ったが彼女の瞳が尋常ではない程に空腹を訴えていたので中断、どうせ髪括ってるし捜してみたが鞄の中にはハンカチしか入っていなかった


他人ちとは言え勝手に冷蔵庫を見る

結果、たまご×1、玉ねぎ2分の1、ベーコン(賞味期限切れ)がパックのまま残されている

一人暮らしとは言えあまりの管理能力のなさに愕然とするものの、冷凍庫を覗くといつのものかは知らないがラップに包まれ冷凍されたご飯が一つあった

おそろしくがちがちに固まっているが電子レンジで解凍すれば大丈夫だろう、多分

そんな訳で



「炒飯でええ?」



空腹と飢餓に支配された彼女は恐ろしい速度で首を縦に振った




●炒飯の男SS●




忍足侑士が芸能界という荒波に飛び込んでもう5年経つ

5年前、氷帝学園高等部を卒業した忍足侑士は大学部に進学せずにお笑い芸人を目指すため大阪に帰る!!と高らかに宣言した

ここで通常のホームドラマなら何を言うと大反対にあうのだガ大学病院勤務の父親は長男である忍足に反対はしなかった

それどころか、帰りたくなったら帰っておいで、と老婆心たっぷりに言われてしまった

その思わぬやさしさに忍足は大泣きしてしまった

まぁ母親は母親でM-1で優勝したら連絡を入れろ、と言っただけで、女医の姉はフットボールアワーのサインを貰って帰って来いと言った

ここまで忍足に職業選択の自由が与えられているのは忍足の姉が立派に医者と言う職業についているからなのであまり文句をつけてはいけないのだがロマンチストの忍足としては父のように温かい言葉をかけて欲しいので「おかんらちょっと冷たいんちゃうの?」とぐしぐしと真っ赤になった目で訴えて見たが母娘共々鼻で笑われた

忍足家では女性が強いのだ、言うまでも無く

まぁ週に1回は手紙やら電話やらメールやらで現状確認や「野菜を食べなさい」とお米券を贈ってくれるという一見よくわからない家族の愛が忍足にはとても愛しく、ラブロマンス系にも弱いがホームドラマ系の映画にも弱い忍足は何度も泣いた


そんな訳で、忍足は順風満帆・家族全員一致万歳三唱で大阪へいけることになった



大阪へ付いてからは月日が風のように速かった

NSCのある難波の安アパートに住居を構えて、肉体労働だが時給が良い工事現場のバイトをしながらNSCでお笑いを学ぶ

かなりハードだが若さということもあいまって忍足は充実した日々を送っていた


「将来絶対ビートたけしとダウンタウンとナインティナインに殴ってもううねん…」


一見お前はマゾなのかという偏見をもたれそうになるが、忍足の小さい頃の夢は万民の笑顔と言うちょっぴり哲学混じりな願いなのだ

つまり「俺が笑いモンになる事で皆が笑顔になるんやったら本望や……」という感じなのだ

書いている本人もあまりにも難解かつ哲学的なので理解に苦しむが、とりあえず彼は嬉々としてラッキィ池田の振り付けの授業も真剣にやったし、かなり低めの自分の声を改善するために発声練習も頑張った


季節は流れそろそろM-1の第一回戦が始まる時期になった


ここでお笑い芸人が自分はピンかコンビか決定するところだが、忍足は自分がボケだと信じて疑わなかったしピンだからこそ弄られる確率も上がるだろうとマゾな事を考えていた

そして忍足がR-1グランプリに向けネタ作りをし始めた所に運命の着メロが鳴る



腹の底からひっくり帰りそうなヘビメタな曲が早朝のアパートに響く

5日前家出と称してこっちに遊び(無断外泊ただ飯ぐらい)にきた従兄弟の謙也の仕業とはいえ何て迷惑なことをしてくれるんや、と電話に出たら鼓膜が抉られた

相手は跡部景吾だった

尊大で横暴、自分大好きなナルシスト、その癖にちゃんと責任感はあって何があっても投げ出さない、凄まじいカリスマ性とほんの一握りの人間にしか見せない優しさと何よりも類まれなるその容姿と風貌で老若の女に絶大なる人気を誇る中学&高校時代のユウジンである

しかし跡部も忍足もそれほどという程仲はよくなかった、だが高校を卒業したら大阪へ行く的な話もしたし(そのときは別に励ましの言葉も見送りも無かったが)何を勘違いしたかたまに実家経由で送られてくる全身タイツなどを持て余しながらぼんやりと跡部との交友はゆるゆる続いていた

それでもこんなはっきりとしたコンタクトは初めてである

携帯電話の向こう側、何だかいつもの余裕を無くしてまくし立てる跡部に新鮮さを感じながら忍足は夢うつつに話を聞いていた

今、跡部は芸能プロダクションを経営しているらしい

世界にその腕を伸ばす跡部グループが何故国内の芸能プロダクションをやっているのかわからないが、まぁお遊びみたいなものだろう

始めたばかりとは言え強大なコネを持つそのプロダクションにはフリーの奴、他の芸能プロの奴、無名から有名まで物凄い数の応募があるらしいと聞いた

勿論忍足は興味なかったし、忍足が目指しているのは芸能は芸能でもお笑い部門だ

しかし、跡部の内容はこうだった


今、所属している数少ない社員が出演する2時間ドラマのエキストラをやって欲しい

本当はまた別の社員がやるはずだったが、そいつが風邪を引いて声が出なくなった


素材は選ぶタイプの跡部の事務所には手で数えるほどしか社員は居ないし、一応台詞もあるので一般人にやらせるわけにもいかない、他の事務所からエキストラを借りたりすれば出演している跡部の事務所の社員まで迷惑が行く、しかし放り出す事も出来ない、そうこう考えていたら思いついたのだ、忍足侑士の存在を


忍足は見目がかなりいいし身長もある、お笑いの授業で演技も発声もブレスも学んでいる、プロ意識には大いに欠けるが忍足にとってもいいチャンスだ


はっきりいってNSCもバイトも入っていない完全オフ日くらいは昼間で寝ていたいがメルセデスベンツのSクラスで大阪⇔東京を送り迎えしてくれる上に交通費を別に支給、勿論ギャラは通常の3倍、夕飯は都内某高級有名ホテルのディナーフルコース+全身タイツ一年分のプレゼントとなれば話は別だ

全身タイツは要らないが即座にオッケーした忍足は急いで起き歯磨きをし身支度をして今持っている一張羅(かろうじてブランド品)に着替えて跡部の車を待った

アパートの場所を教えていないが跡部なら大丈夫だろう、予想通りに1分後にやってきたベンツに乗って忍足は大阪を出た

車の心地よい振動に揺られて数時間、久しぶりの東京を味わう暇も無く現場についた

生まれて初めてのテレビの仕事、ホントはバラエティがよかったんやけど……と贅沢な呟きを心に埋めて忍足は頑張った

ぶっちゃけ、登場シーンは一瞬きりである

恋人に振られた主人公が花屋の前を通りかかる、気は向かなかったが中を覗くと男が花束を買っている、綺麗な花……、そう思って去っていく男の腕の中の花束に見とれているとまた別の花屋の店員に話し掛けられる「お花が好きなんですか…?」と

そこからまた別の恋愛に発展していくらしいのだが、忍足の役は花束を買う男の役である、台詞も一行だけ

このためだけに大阪から出てきたと思えば肩透かしの上に虚しい気もしなくは無いが、持ち前の真面目さと鍛えた演技力(お笑い方面)であっさりOK

何度も言うが忍足はエキストラ、役名すらない端役以下

それでも、それでも忍足はどこかに充実感と高まる昂揚に気付かないフリをして跡部のベンツでホテルへ直行した

飯は美味しかったしデザートも付いていた、多忙な跡部と最後まで同席は出来なかったのは少し残念だったが跡部ももっと現状を話したかったようでまた会う約束もした

ベンツの柔らかな椅子にうとうとしながらまどろむ帰り道もとろけるようだった

無論それはシンデレラのように0時までの魔法であり、次に目覚めればバイトとお笑いへの道を極める日々へと変貌する

それでも息抜きには最高の一日だった、帰ったらおとんとおかんと姉貴に絶対絶対知らせたんねん、テレビ出るーって、絶対驚くわー

そこまで思って忍足は意識を落とした



一週間経って2時間ドラマ放送後

一時間経ってもボロボロ泣いてと14型のテレビの前から離れない忍足にまたヘビメタが鳴り響く

相手は跡部だ

忍足はぐずぐずと鼻を啜りながら直ぐに電話に出た

ボロボロと零れ落ちる涙を溜める心の中は跡部に感謝したい気持ちで一杯だった

気まぐれとは言え、エキストラとは言え自分をこんなええドラマに出させてくれてありがとう

このドラマの一部になれてホンマ嬉しい、有難う跡部、ホンマ有難う、……でも最後ヒロイン殺したのはやりすぎやと思わへん?ヒロイン、絶対コージとなら幸せになれたのに…!!

そう熱く語る忍足を制して、跡部は言い聞かせるように言った

大変な事になった、と


事の始まりは忍足の登場シーンが瞬間最高視聴率をたたき出してしまった事による


その通知、というか統計が出たとき跡部は偶然だと思った

20,2%

恐ろしい記録だとも思った

しかしこれが全て忍足のお陰、と思うのは身内びいきにしてもいささかおかしい話である

確かに忍足は整った容姿だ、見目もいい、身長だってある、声は低くお笑いには向かないがシリアス系の俳優としてならパーフェクトだし、これは跡部自身驚いたのだが忍足の演技力はかなりいい線行っていた

発声、ブレス、音、感情、お笑い学校で身に付けたにしては過ぎたものを思ったが、それでも忍足のお陰なんてちっとも思わなかった

だいたいこの芸能界に忍足の条件を満たす奴なんてゴロゴロいる、無論、無名の役者系のグループにだ

この世界は甘くない、容姿だけで勝ちあがれたら整形外科医が儲かって仕方が無いし自分だって天下を取れる

まぁ良くやったのは事実、今度また暇なときを見つけて食事にでも誘おう

そう跡部が携帯電話を握った瞬間

携帯、事務所の電話、外部用の連絡器、あとで調べてみたら自宅の家や自分のマネージャーである樺地の携帯電話&実家まで



「あの2時間ドラマ花屋のシーンのエキストラ、跡部プロダクションの方ですよね、その方の名前と連絡先をお教えできませんか!?」



という鼻息荒い内容の電話が、事務所をつきぬけた





そんな訳で忍足は跡部に東京に呼び戻された、ほぼ強制的に

忍足にはお笑い芸人になる夢があったし、まだビートたけしにもダウンタウンにもナインティナインにも殴ってもらっていない

そりゃ撮影は楽しかったし、出来る事ならもっと出たいとも思った

しかしお笑いと俳優ではかなり違う、と思う、俳優だって人を笑顔にすることも出来るがまた違うと思う、自分がやりたいのはお笑いだ、そう何度も忍足は真剣に跡部に詰め寄った


……だったら東〇久系の俳優になればいいんじゃねーの?


それもそうだ、と納得してしまう忍足は馬鹿だった


結局大阪から東京に呼び戻された忍足は数少ない跡部プロダクションの一員、それも新人にしてトップに踊り出てしまった

ぶっちゃけ嬉しくない

俳優としての実力が無いのがわかっているし、情熱もないのもわかっている

シンデレラの末路を知っている身となれば余計に気も沈んでくる

実際そうだ

一夜にして有名となった忍足への仕事の量は、今までの暇人的な大阪生活に比べれば倍以上になり、バイトをする余裕も必要も無くなった

その分他の人間のやっかみも増えた、妬みも嫉みも増えた

無論事務所内ではそんな事もなかったが、一歩外に出ると酷かった

跡部事務所の出身というだけで羨望と嫉妬の眼差しで見られるのに、知らない間に高みに居てしまった身としては理不尽さに泣きたくもなる

自分の目指す場所でもない

泣き言を言って何度もやめようとした



「忍足さん、楽しそうですよ」




そんな自分の隣にいたのは、―――今目の前で飢餓状態に陥っている彼女だった



.

続きは此方


夏風邪が治らないzuizuiに自分慰めSS

どうでもいいがしょうも無い

忍足→ヒロインのつもりが、ヒロイン×忍足的な感じ

素敵に変態忍足ヘタレてます

それでもいいなら↓







夏風邪は嫌いだ

夏が嫌いなわけではない、夏風邪が嫌いなのだ

まぁ普通に考えてみれば風邪を好きな奴はいないと思う、つーかいない、誰だって体調が悪かったらしんどいし気持ち悪い

でもぶっちゃけ夏風邪って掛かってみればわかるが本当にタチが悪い風邪なのだ、私的インフルエンザよりタチが悪い(インフルエンザ掛かった事ないけど)

それもそのはずで、風邪の自然治療を説明すると体に入ったウィルスに対して発熱する事によって熱に弱いウィルスを攻撃し、またその発熱によって免疫細胞が活性化しウイルスを退治して治る、という感じだ

しかし夏は体は元より頭も沸騰するように熱いのに、気温も室温も嫌になるくらい高くて暑い

よって現代っ子&都会のもやしっ子を地で行く私にとっては灼熱地獄より酷い試練なのだ

ま、実質兄貴と二人暮しとはいえ言うほど貧乏ではないが、クーラーという地球温暖化の原因かつ夏期の電気代の半分を担ってしまう冷房機能が付いた文明の利器をやすやすと使ってしまう訳にはいかない

地球資源と一ヶ月の生活費は大切に

それゆえに室温が1℃上がれば体温も1℃上がる

無論体には発汗という便利な冷却機能がついているがその発汗機能のせいで私の体は汗まみれでべたべただ

比例するように頭はグラグラ、というよりガンガンと頭痛を伴ってきた

吐き気がしないだけマシだろうが鼻はしっかりと詰まっていて、最近エコロジー・ライフに嵌ったという自然児の兄貴が見たら卒倒しそうな程にティッシュを使ってしまった

兄貴が嫌いなわけではないが私が噛んだティッシュ達を抱き締めて大地の悲鳴が聞こえる!!泣き叫ぶ不思議系な兄貴を見たら無意味であろうとも風呂桶に突っ込みたくなる

大粒の涙はお風呂に入れるくらい溜まるだろうか、ま、入る気などしないが




「……大丈夫かー?」



ボケーと布団の上で干物の気分を味わっていたら左上から死にそうな声が聞こえた

分厚い布団の上に投げ出された体を動かす事は無理なので顔だけでも動かす

私の視界に飛び込んで来たのは眉目秀麗と言っていいほどの顔面を転がっているティッシュのようにくしゃくしゃにして切れ長の瞳の端に大粒の涙を溜めた伊達メガネの顔だった

何でそんなに高いんだよ、と突っ込みたい鼻を真っ赤にさせて、おまけにぐじゅぐじゅと馴らして薄くて綺麗な口の端をゆがめている

その唇からは嗚咽が零れそうだった




「………」

「ああ!!起きたらあかん!まだ風邪ひいてるんやがらっ」



体を起こそうとしたら慌てた伊達メガネが舌を噛んだ

口を押さえて蹲る伊達眼鏡――、忍足侑士を見上げながら、何やってんだ、と冷たい視線を送る

しかし忍足は、そ、そんな熱っぽい視線で誘っても何もでけへん!と何を勘違いしたのか畳の床に『の』と書き始めたので無視することにした

あれ?つーかなんでお前居るんだよ、と私は突っ込もうとした

どーせまた1階のトイレの窓から侵入したのだろう

いくらお前が細いからって30cmかそこらしかない隙間を通るのは危険だ、詰まったらカッコ悪いぞ伊達眼鏡と意識を飛ばしながら私は目を閉じる


忍足侑士はロマンチストなのだ

いや、いきなり話が反れて何なんだと思うだろうが忍足侑士はロマンチストなのだ(2回目)

百夜通いというのは知っているだろうか

小野小町という絶世の美女(らしい)に惚れた深草少将は小野小町に猛烈なアタックを繰り返したらしい

しかし好きでもない男にアタックされても嬉しくないのが今も昔も女のスタイルで、少将の愛を鬱陶しく思った小野小町は自分の事をあきらめさせようと「私のもとへ百夜通ったなら、あなたの意のままになろう」と少将に告げたのだ

それを真に受けた少将はそれから小町の邸宅へ毎晩通うが、思いを遂げられないまま最後の夜に息絶えた、というのが百夜通いの話だ

まぁもっと深く掘り下げればもっと崇高で複雑な日本文学たる恋愛模様があるらしいのだが忍足や兄と違いリアリズムを貫く私はそんな話など興味ない

興味があるのは深夜トイレに行こうとした私の目の前に(正しくは1階のトイレの窓から侵入しかけている)忍足侑士の存在だった

始めはびっくらこいて110番と家庭相談所に電話したりもしたけど、話を聞けば百夜通いの話を聞かされ、途中から起きてきた兄も巻き込んでの告白を聞かされた


――百夜通ったら、俺の恋人になってくれ!!


ぶっちゃけ、その時告白にOKもNGも出さなかった身としては込み入った事を言っちゃいけないのだろうが、まずその告白の前半部分は要らないと思う

あと百夜も無断で不法侵入してれば私も法律が黙っちゃ居ないし、近所のお人だって通報するだろう、未成年とは言え守られるべき理不尽なルールの中で生活するなら度を越えた理不尽を他人に合わせてはいけない


まぁ置いといて、そんな絶叫告白をしたワリには是非を言わせる暇も与えずそそくさと帰っていった忍足が何百回と、それこそ一日も開けずにやってくれば小野小町もさほど驚く暇も無く慣れてしまうだろう

1年を超えた今では住居不法侵入もストーカーも家族公認だ

ココまで愛されているんだから大切にしてあげなさいとエコロジカル・ロマンチストの兄貴は熱弁を振るうが捨てても捨ててもリサイクルするどころが新しいものをプラスして持ってくるストーカーに私のキャパティシィは日々オーバーヒートだ

しかし冬の寒い日だろう近所でモノホン(忍足も充分本物だが)の変態がうろついていてもが1階のトイレの窓を閉めない私も私だ

慣れって恐い



「ホンマいっつも言ってるやんか、帰ったら手洗いうがい、ミューズとイソジン!!風邪は普段の行いが一番大切何やからな!!……んで、おかゆ食べれる?侑ちゃん頑張るで!大阪人は粉モンしか作れへん言うけど俺は違うからな!!お好み焼き風おかゆ作ったるからまっとってや!!」



と、今まで意識を三軒向こうの芥川クリーニング店当りに飛ばしてた私に忍足は意気込んで立ち上がった

後々考えれば熱に浮かされた体がどうしてこんなに早く動いたのかは不明だが私は忍足の片足付いている方の足を力強く掴んだ

忍足は畳の上にもんどりうった

音は地味だったが、痛そうだった



「……何すんねん」

「――――」



倒れたまま呟く忍足

低くやたら脳髄に響く声が涙声だった、……という事はあの溜まっていた涙が一気に溢れたのだろうか

どうでもいい、本格的に脳味噌が沸騰してきた

眩暈と動悸で頭がおかしくなりそうだ



「夏風邪なんて嫌い」

「……あの、手を離してくれへんと立てへんねんやけど」

「大ッ嫌い」

「……あの、俺に言われているみたいで気付くんやけど」

「ホント嫌い」

「出来る頃なら他ントコをにぎにぎして欲」

「死ねばいい」

「ギャー!!、痛痛痛ッ握りすぎ握りすぎ!!ごめんなさいごめんなさい!!もう言いません!!ごめんなさい!!すんませんでした!!」




忍足の足(踝だろうか)を握る手が熱い

元々扇風機しかない部屋だ

窓の端につけられた風鈴は職務怠慢を起こして動きすらしない



夏夏夏

青い空に白い雲

蝉が五月蝿い夏

頭が、ぐらぐらする




「ホラ、……もう足がスゴイ事なってるし、赤い痣……、しかもお前の手も……わ、スゴッ、体もこんなに熱いやん!!」

「……」

「夏風邪は性質悪いからな、ゆっくり寝てい、お好み焼きのおかゆ一杯作るし」

「―――――」




夏風邪なんて嫌い

どれだけ君の肌が恋しくても

粘りつくような熱が抱きつく事を許してくれない




「海に行きたい」

「な、なんや…いきなし」

「湖に行きたい」

「……うん、うんそうやなぁ、ザッブーンって湖もいきたいなぁ」

「シャワー浴びたい」

「……それは、風邪治ってから」

「とりあえず、涼しいところへ行きたい」

「んー……じゃ下のリビング行くか?西日でここよりはまだ涼しいで」

「忍足、暑い、ひっついてるの暑苦しい」

「わかった」




何をわかったというんだ、と私は泣きそうになった

やっぱり風邪なんて引くもんじゃない、と私は忍足の腕の中で泣く

身体の外も中も溶けそうななほど熱くて汗でべたべたする

きっと脳味噌は原型を留めていないんだろうと、私は思った



「―――冬になったら、手ェ繋いでいいって事やんな」



涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で忍足が笑う

お前さっき何聞いてたんだ、と私は突っ込みたかったがもう体がダルっちいので何も言わない事にする

忍足の頭蓋骨には何も入っていないのだろうきっと

そしてこのまま溶け合ってしまえば、それから瞬間冷却で固まらせたらトイレの窓を開けなくとも間違った方向に擦れ違う私の片想いも終わると思った私も脳味噌がなくなってきたのだろう



別に自分を絶世の美女と言うつもりは一切無い

しかし、小野小町だって、始めは鬱陶しがっていた恋でも次第に惹かれるのだ

それが初めから惚れていただなんて

一体この想いを火照る身体のどこにもっていけばいいのか



――ああ!!もう!そんな無防備な姿せんといて!襲いたくなるやんか!!!とガッツポーズで悶える忍足に、どうせ元気でも何もしないくせに、と私は呟いた



季節は何度も言うが夏

蝉が五月蝿く、無風の私室に二人きり

恋はまだ始まらなかった



その後脱水症状でぶっ倒れた私たち二人をエコロジカル・ロマンチスト・ちょっぴりシスコン☆な兄貴が発見しまた大騒ぎになって私の疲労は倍になる


やっぱり夏風邪なんて大嫌いだ、アホ



.


多分、俺は生きていてはいけないのだと痛感する

別に世の中なんて関係ないし、見も知らずの他人が自分をどう思っていようとそんなには関係ない(女の子は別だけど)

しかし他人がどれほど自覚していないとしても、白髪の丁髷にヘタレと命名された俺の性格としては無意識とは言え自覚症状から来る罪悪感には耐え切れない

何だか自分でもよく判らない解説なのだが、補足説明的にすると俺は雨男らしい

ぶっちゃけ意味のわからない前フリだが、そもそもの始まりが今から17年前の俺の誕生日、神奈川県に季節はずれの台風11号が直撃し、俺は床上浸水する分娩室の中で生を受けた

それからは悲惨で幼稚園の入園式はどしゃぶり、初めての運動会は何もしないにも関わらず三日延期になったし、学芸会は屋内での発表だったハズだが本番中に新築の校舎が雨漏りしだした為中止になった

不安になった母親が近くに住む幸村明神という神社に駆け込んだ所、前世に俺が龍神の髭を一本抜いたという罪により(何だソレ)祟られているらしかった

だったらどうしたらええねん、という俺の心の突っ込みに返ってきた台詞は龍神が飽きるまで待て、という中途半端な返答で、結局はどうにも出来ずバケツをひっくり返したような夕立の中母親と帰って行った思い出がある

俺が生を受けて17年経った今では龍神も適度に飽きてくれたらしくぶっ飛び!!と言うのような天候の変化はないが、イベントや用事事には8割の確立で雨が降る

そんな訳で心を痛めてしまうのだ、超不本意ながら



「明日、晴れるといいな」



いつものように無表情で

でも少しだけ楽しそうな白髪丁髷の顔を見ると余計に

……勘弁して欲しい





◆3毒、ドタバタ七夕(時間が遅れた上に雹夢じゃなくなったぜ)SS◆





雨が降っている

まるで、生徒会室の大きな窓に恨みがあるという程にその礫は冷たくその身を叩きつける

そんな音も結構鬱陶しいのだが、雨が降っていると自然に気分が落ちてくる

勿論、天候如きにアドバンテージを揺るがされるような甘い感情は持っていないし、今まで生きてきた時間から考えても今ごろの季節に梅雨前線がせまっくるしい日本に停滞する事も知っている

それを梅雨というのもイヤと言うほど知っている

まぁどんな状況であろうとも任務を実行し、どんな状態であろうとも任務達成をもぎ取ってくる、それが霧嶋の人間というものだ



(……それにしても、湿気が酷い)



元々この生徒会室は忌野雹の意向もあり、広大でやや奇抜なデザインのジャスティス学園でも最高の位置に存在している

日当たりから間取りに広さに利便さ、冷暖房は当たり前として除湿機に空気清浄機、無論インターネットも通ってるし、ガスも水道も完全完備、部屋の隅っこには副会長が持ち込んだ小さな冷蔵庫もある

だから1週間連続で雨が降っていようがこの部屋に居れば快適そのもの

授業中までここにいる事はできないが、毎日の放課後を会議で潰してしまう身にとっては喜ばしいものだ

しかし、と霧嶋九郎は思う



冷房もかけている、除湿機もフルで2台使い、普段使わない換気扇まで回している

なのに何故だろう、このねっとりと粘りつく湿気は




「………あ、居たんだ九郎~」



ねっとりと、まるで下水管のヘドロのような声がソファーから聞こえる

忌野雹のお気に入り(らしい)真っ白いソファー、しかし本当にお気に入りなのは、今さっき死体のような声を出した人物だと言うことを九郎は知っている

……今までわかってて無視したのだが



「……なんですか、先輩」



年上でおまけに生徒会の役職的にも上に存在するその人物(死体)に九郎はできる限り優しく返答した

今でも成るべくソファーから距離を取っているので、こんな小さな声が聞こえるかはわからなかったがその人物にはこっそり聞こえたらしい

もっそりと白いソファーの上に存在する死体は顔を上げる

乱れた前髪、鼻からは鼻水が出ていて、それは白いソファーにまた別の白いシミを作っている

……私は知らない……、霧嶋九郎は呟いた



「……もう俺死んだ方が良いかもしれない」

「……何を前フリ無しに言ってるんですか」

「もー駄目だ、もー駄目だ、今まで色んな奴らに白い目で見られたり天の川の織姫様にどんだけ申し訳ない思いしたりしたんだけど!!今回はもう駄目ぽ、すっげーへこむ!!」

「何語話しているんですか…」



少し眩暈を感じながら九郎はゆっくりとソファーに近づく

ぐってりとソファー全体にその体を投げ出して、(一応)副会長はぐずぐずと愚図っていた

少し草臥れた感じの制服は押しつぶされて皺が出来ている

この学校でたった二人しか着る事の許されない紅

自分が他の生徒達から(まがりなりも)嫉妬と羨望の対象で見られている事をわかっているのだろうか(きっとわかっていない)



「まったく……何がしたいんですか、貴方」

「一切無駄な罪悪感により落ちこんでんの!!……もーヤー!!ホント俺の雨男っぷりは雹クン知ってるでしょうに!!去年のキャンプファイヤーを突然のスコール(をい)で消化しちゃったのは何を隠そう俺ですよ!!……つーか、なんだよ、最後の最後に龍神様怒っちゃって!!」

「………」

「……だから、だからあんな(俺的には)良い笑顔で『雹タン、七夕チョー楽しみだな☆』的な事を言うなよ丁髷ハゲめ!嫌味かアレは!!!」



うっわーん!!!!……そう叫んで副会長はまたソファーに顔を擦りつける

……涙、汗、涎に鼻水、消して綺麗とは言えないものを擦りつけられているソファーは悲惨にぐちょぐちょで、これは大変だと九郎は一人で思った




――ジャスティス学園に潜入せよ




裏の世界では下級の地位に当る霧嶋一族

しかし言葉上では綺麗に片付く物も、実体はたった一人の命を纏うする為にまるでセコセコと蠢く虫けらのような存在で、もう聞き飽きする程にゴミめ蛆めと何度も何度も九郎は罵られた

その言葉に当時幼く愚かだった霧嶋九郎は幾度となく傷つき、そしてそれこそヘドロのようにしつこく九郎自身の精神を蝕んで、いつしかそれは嫉妬と屈辱と憎悪が織り交じった思いに変わっていった

そしてそれは最終的に全てを屈服させてやると根底的な今に変わった




――我等の邪魔となれば、容赦をするな



上から下った命はジャスティス学園と言う忌野雷蔵が作ったと言うアホらしい施設の調査と監視だったが、それだけで済ませようなんて九朗は思っていなかった

忌野雷蔵を倒し、我が洗脳術で忌野家最強と呼ばれる忌野雹を手に入れる、聖女院学園というまた馬鹿みたいな学校に潜伏中のゆりかも使って徐々に支配を強めていく

忌野雹が失敗したあの日本征服と言う目標

自分を卑下した全ての愚民に、叩きつけてやろう

そう、思った



「……九郎、今日は何月何日?」

「7月7日です、七夕ですね」

「………天気は?」

「土砂降りです」




まだ星出る時間帯ではありませんが、と付け足そうと九郎は思ったがぐずぐずと愚図るこの人にはきっと何も効果は無いだろうと思い口を噤む

変わりにソファーの傍にしゃがみ、頭を(極力優しく)ポンポンと叩く

そして無理やり顔を上げさせて、鼻水まみれの顔をハンカチで拭いた

たったそれだけの行為に何故か満たされてしまう自分が居る

それに内心驚く




――ジャスティス学園に入学して、生徒会に入って現在、何よりも1番に驚いたのはこの人の存在だったりする

はっきり言ってこの人は無能だ

別にこの人を卑下するわけじゃないんだが、仕事が出来ないと言う言葉を無能以外で表す事が出来ないのであえて無能と言わせてもらう

実際にこの人は書類整理も出来ないしパソコンも触れない、携帯電話を持っているくせに電話とメール以上のことが出来ないから留守録設定をしていない

デジタル社会をゆるゆると逆行して生きるこの人に何をどうしたら其処までもパソコンの機能を低下させることが出来るのかと聞きたいくらいだし、寧ろデータも残さずに忌野雹のパソコンに侵入しあらゆるデータを破壊する事が出来るこの人を逆に天性のクラッカーかもしれないと神聖視したこともある

聞くところによると料理は出来ないらしいがお茶を入れるのが上手くて、裁縫は出来ないがマフラーを編むのが得意

特技である卓球はアマチュアのワクを超えてプロ並らしいが、基本的に体力はほぼ皆無でジャスティス学園の体育(20キロマラソンや10キロ遊泳)の後よく真っ青な顔して保健室に運ばれていくのを見ている

簡単に言えば一長一短という言葉が良く似合う先輩で、しかし秀でた部分が劣っている部分を覆い隠すでもなくただ持て余しているという感じが否めないのだ



「……もーどーしよ、テルテル坊主作ったらどうにかなるかな」

「さぁ」

「……絶対雹がっかりするよー、なんか今日さー電話で伐に『俺の家で笹飾ってる楽しみにしてる』って聞いちゃってさー、……何か恭介さんもわっくわっくしてるらしくて、絶対俺殺されるー……」

「…別にこの地域に雨が降ろうが台風が来ようが先輩に一切責任は無いでしょう?」

「いや俺、昔龍神の髭抜いた(らしい)から」

「………」



今のように、しっかりと真顔で(女なんかにでれっとしないで)見据えればそれなりにこの人の見目は整うと九朗は思う、身長も高いほうだ

あの容姿だけは抜群のいい忌野雹の隣に居なければこの人が思う以上に女は惹かれると思う、性格も良いし、きっと大切にだってするだろう

それでもこの人は忌野雹の傍から離れないし忌野雹もこの人を離そうとしない

これも九郎が驚いている一つの事実だ




――俺は、雹の笑顔がみたいんだ




元々、この人は某有名スポーツ大学の附属高校の出身だと聞いた

それが一年前、忌野雹に出会い、あっさりと一ヶ月も待たずに退学し、ジャスティス学園に入学した、実家も離れて、今ではアパートに一人暮らしらしい

どうして其処までするのか、どうして他人の気まぐれなんかに自分を曲げたのか

あまりにも簡単で、あまりにもあっさりと

その自由さに苛立ちを感じながら九郎は聞いたのだ

どうして、忌野雹の傍に居る?



――何となくだな、幸せそうな雹が見てみたいんだ



にこにこと笑いながらこの人は言った

いつだったかは忘れた、それでもきっとこんなにも鮮やかに思いに残っている



――気まぐれだな、きっと



そこから全てがあほらしくなった

何を自分は頑張っているんだろうと思った

こんな腐った世界でどれだけ自分が更生しようと紛争しても意味が無く思えた

むしろ、そんな事が自分のやりたい事だとは思えなくなった

何故だろう、もしも邪魔にさえなればこの人だって殺せたのに

苛立ちも憎しみも全てがあほらしくなるほどにこの人は自由だった



――先輩

――ん、何だ九郎



この人は変だ

無能でやる気もそんなに無い、やるべき仕事もやらないでいい仕事も増やしまくる

パソコンの立ち上げ方もわからないし、インサイダーをダースベーダーの進化系だと思っている

細かい作業は嫌いだが、手先は器用なのでお手玉は八つまでできるらしい

寮に入らず一人暮らしをしているので、それが結構貧乏生活でこの前学食を奢ったら大層感激された

基本無神経な性格をしているのに、ちょっとしたことで責任を感じて気にしたがる

驚いたことは数知れないし、これからも増えつづけるだろう



――認められたいです

――うん

――今まで、私を卑下した人間全て、それから……ゆりかにも

――うん

――私だって霧嶋の運命を変えられる、霧嶋如きの運命に屈しない

――うん

――強くなります、世界の誰よりも



もう誰にも自分を馬鹿にさせない、自分を認めさせてやる

家系ごときに縛られない、自分が優秀になることで変えてみせる、全てを根本的にひっくり返してやる

忌野雹よりもずっと強くなる、こんな世界に囚われないで、強く強く

まぁ考えれば考えるほど、――本当に馬鹿らしい事なのだが

気付かなかっただけで、考えつかなかっただけだ

霧嶋九朗も、嫌になる程自由だったのだ






――九郎なら出来そうだな






その時、私は救われた





「……知ってますか、先輩」

「……んー」

「七夕物語というのは日本古来の豊作を祖霊に祈る祭、今のお盆ですね、それに中国から伝来した乞巧奠が習合したものと考えられています」

「き、きこう」

「織姫や牽牛の言葉は春秋戦国時代の『詩経』が初出とされていて、七夕伝説の方は漢の時代に編纂された『文選』の中の『古詩十九編』が初出とされています、まぁ南北朝時代の『荊楚歳時記』や『史記』等の中にも記述があります」

「……く、九郎?もっと頭脳のレベルを下げてくれないかな」

「日本は『古事記』に記された『棚機津女』が有力らしいのですが、まぁ歴史など興味はありません」

「……」

「七夕伝説は知っていますよね、働き者の二人が恋愛に現を抜かし勤務を怠ったがために天帝の怒りに触れ、離れ離れにさせられた……ねぇ先輩」

「ん……んー?」

「(寝てたな……)どうして7月7日という梅雨の時期にだけ天帝は二人を会わせようとしたんですかね、天の川の水かさが増せば船渡しは船を出してくれないのに」

「……ん、たしか旧陰暦がどうとか雹が言ってたような気がする」

「ええ、でもね、本当は雨が降っても大丈夫なんですよ」

「………」

「どっかから、泣いてる織姫を可哀想と思ったのか無数のカササギが助けてくれるんです、自分の背中を貸して」

「………」

「だから、雨が降ってようがきっと短冊の願いくらい叶えてくれますよ、忌野生徒会長も満足します」



ちーん!!と勢い良くこの人の鼻を噛んで、俺は言った

無論ソファーはべとべとだ、このタイプのソファーはカバーを取り外せるタイプではないからきっとココだけかぴかぴになったままだろう

まぁいい、忌野雹だってここに緑茶をこぼしていた

多分、自分しか知らないが



「……九郎はいい子だな」

「……どうも」

「でも恭介さんの怒りが収まってなかったら俺はどうなる」

「クロスカッターくらいなら耐えられるでしょう」

「………」



ザァザァと生徒会室の窓を割るような勢いで雨が降る

このままではきっと夜になっても止まないだろう

天の河は溢れてしまう、……まぁ宇宙の星が雨で濡れるなんて現実的にはありえないがそれは黙っておく



「安心してください、その時は背中に乗っけて病院まで運んで上げますよ」



きっと川べりでぐずぐず泣く貴方に耐え兼ねて

織姫には程遠い容姿と泣く理由、それでも私は耐え兼ねて渡してやるのだ

自分の背に乗せて、涙が乾く向こう岸へ

その場所に、忌野雹(あとゆりかと鑑恭介と一文字伐)が居ない事願う




「……じゃあ、付いて来いよ、今日伐に御呼ばれしてるんだから」

「本気で言ってますか?霧嶋の人間が忌野の家に行くなんて」

「結構マジっすけど……?」

「……やっぱり面白い人ですね」

「ふーん……」



もっと強くなりたい

その願いは逢引で少々気前がよくなった男女如きに任せるわけには行かない



「さぁ先輩、早くソファー誤魔化さないと忌野生徒会長来ちゃいますよ」



ゆっくりとこの人の腕を引いて体を上げる

ぶちぶちと、まだ不安と文句は足りなさそうだが直ぐに立ち直るだろう

しかしまだこの人がブチブチ言う間は忌野雹よ、来るな

誰も知らないだろう、カササギが同情以上の気持ちでその背中を貸していようとも

まだまだ、この思いは九郎の物だけなのだ



天を仰げば千の星

可視のものも不可視のものもあわせて沢山

その中で1番輝くように、もっと強くなりたい、もっと強くなる

誰にも教えない、たった一つの自分のやりたい事

胸の奥に閉まったまま



未だに恨めしそうに窓を睨みつける瞳を見つめつつ、ゆっくりと九朗は背中に手を回した

久しぶりに笑いたい気分になったのも、また秘密にすることにした




end


朝の5時に書いたはチャメチャパロディ

色んなところがおかしい

あ、今アンパンマン見てます、菊丸が水筒の役をしてます、あはは(何)

それでは、どうぞ






空が白んできた

時刻は朝の5時にさしかかろうとしている

夏とは言え朝と夜の間の独特な空気はひんやりと冷たくて、俺は白い息を出す

7月に白い息ってありえなくないか?心の中で呟いてみるが何も動きはしない

まだ皆眠っているのだろう、俺はベランダに近づきカーテンを開けた

高さ7階分の場所から見下ろす東京はまだ少しだけ薄暗いが時が進むごとにクリアになっていく

ぽつぽつと見える街灯や車の明かりが何とも情けなく、ちっぽけで俺は笑えた



「……まだ7月じゃねぇ、6月だ」



外とは違い、語尾に行くに連れてあやふやになっていく低い声が響く

俺は振り向いてダブルベッドに視線を移すと薄い真っ白なシーツの下でもぞもぞと何かが動いている

まだ眠たいのだろう、しかしそれなら何故突っ込んだんだ

ずぼらな癖に変な所で几帳面な彼の性格なのか、まぁ今はどうでもいいので俺は指摘された間違いを訂正する事もなくまたガラス越しの町を見つめた



「……寒ィ」

「マッパで寝るからだよ、ベランダ開けないでやってんだから毛布でも捜して被ってろ」

「………うるせぇ、だいたい〇■×☆……」

「何言ってんだよ」



俺は含み笑いを堪えた

別に大爆笑しようがこの部屋には俺と奴しかいないのだから構わないが、一応マンションという共同生活体の中に生きる一人して俺は黙った




「俺さ、朝日好きなんだ」

「……そうか、変な野郎だ」

「いや違うな、朝と夜の隙間が好きなんだ、空が白んでくる瞬間とか、朝日が上る前の瞬間」

「………不思議な奴だな」

「ああ、何かそんな時に起きてるなんて嬉しくてさ、無駄にドキドキしちゃって用も無いのにコンビニとか行ってアイス買うの」

「……買っていいのは一日一つまでだ」

「わかってるよ」



俺は窓ガラスの空を見る

いつものように紫に染まらないところを見ると今日は曇りだろうか

まだ梅雨を抜けきっていないというなら、今日もまた洗濯が出来ない

またこの日曜日がベッドの中で終わりそうな気がして俺はため息が出る




「……それでも悪くないとか思うのがイヤなトコなんだけど」

「………何か、言ったか」

「別に」

「………俺は、寝る、起こすな」

「へーへー」




俺は気の無い返事を返して、視線を下に変える

ぽつぽつとゆっくり流れる車は休日に何処に向かうのだろうか

終わらぬ仕事が待つ修羅か、それともうちの男が寒そうに凍えるベッドの中か

どちらにせよ、この瞬間は胸騒ぎがする、どきどきする

朝と夜が交代する、その中で




「おかしいのかな、俺」




ぐぐぐ、と口の中の八重歯が伸びる

体中の血が全身を駆け巡り、爪が固く、長く変形する

危ない、今、成ったら灰になってしまう




「大変だよ、吸血人種(ドラクル)も」




すっかり、モードに入ってしまった体を掻き毟りながら俺はため息をつく

体はさっきの何倍も抗体が出来、おまけに不老不死という特典つきの、飢餓モードに入っており体がもどかしさで死にそうだ

ま、死ぬ事なんてないけど




「……俺は、吸わせない」

「わーってるよ、つーか誰が吸うか、淫魔(サキュバス)のまっずい血なんて」

「………」

「こっそり傷つくな」




それでも焦がれる真っ赤な太陽

見ることは出来ないけど、上る瞬間、まるで楽しみにしていた映画を始まるのを待つような感覚

欲しい欲しい欲しい

この世で太陽に欲情するアホなんて俺独りだろう、そう思う




「でもね、君が欲しいんだ」




町が明るくなる、街灯が消える、町が白む

息が苦しい、胸が熱い、体が解ける

それでも、窓の外の真っ赤な太陽、雲に隠れる太陽に、手を伸ばす

姿は見えなくてもわかる、その存在が

まるで、惹かれあうように



「………俺じゃ駄目なのか」

「女性恐怖症の淫魔なんて美味しくねーモン」

「……」

「勝手に傷、きずつけ、ばー、か」

「……もう限界だろう」




君に焦がれてやまない

窓の向こう、禁忌の存在

手に入れたい、手に入れて欲しい

いつか

いつか、君を手に入れる

僕が真っ白い灰に成る前に





「だから燃えるッツーか、真剣になれるっつーか、俺が生きて1000年経ってもテニ入れ、られないものは」

「……もう言いから寝ろ、変態マゾ人間」





end

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