夏風邪が治らないzuizuiに自分慰めSS
どうでもいいがしょうも無い
忍足→ヒロインのつもりが、ヒロイン×忍足的な感じ
素敵に変態忍足ヘタレてます
それでもいいなら↓
夏風邪は嫌いだ
夏が嫌いなわけではない、夏風邪が嫌いなのだ
まぁ普通に考えてみれば風邪を好きな奴はいないと思う、つーかいない、誰だって体調が悪かったらしんどいし気持ち悪い
でもぶっちゃけ夏風邪って掛かってみればわかるが本当にタチが悪い風邪なのだ、私的インフルエンザよりタチが悪い(インフルエンザ掛かった事ないけど)
それもそのはずで、風邪の自然治療を説明すると体に入ったウィルスに対して発熱する事によって熱に弱いウィルスを攻撃し、またその発熱によって免疫細胞が活性化しウイルスを退治して治る、という感じだ
しかし夏は体は元より頭も沸騰するように熱いのに、気温も室温も嫌になるくらい高くて暑い
よって現代っ子&都会のもやしっ子を地で行く私にとっては灼熱地獄より酷い試練なのだ
ま、実質兄貴と二人暮しとはいえ言うほど貧乏ではないが、クーラーという地球温暖化の原因かつ夏期の電気代の半分を担ってしまう冷房機能が付いた文明の利器をやすやすと使ってしまう訳にはいかない
地球資源と一ヶ月の生活費は大切に
それゆえに室温が1℃上がれば体温も1℃上がる
無論体には発汗という便利な冷却機能がついているがその発汗機能のせいで私の体は汗まみれでべたべただ
比例するように頭はグラグラ、というよりガンガンと頭痛を伴ってきた
吐き気がしないだけマシだろうが鼻はしっかりと詰まっていて、最近エコロジー・ライフに嵌ったという自然児の兄貴が見たら卒倒しそうな程にティッシュを使ってしまった
兄貴が嫌いなわけではないが私が噛んだティッシュ達を抱き締めて大地の悲鳴が聞こえる!!泣き叫ぶ不思議系な兄貴を見たら無意味であろうとも風呂桶に突っ込みたくなる
大粒の涙はお風呂に入れるくらい溜まるだろうか、ま、入る気などしないが
「……大丈夫かー?」
ボケーと布団の上で干物の気分を味わっていたら左上から死にそうな声が聞こえた
分厚い布団の上に投げ出された体を動かす事は無理なので顔だけでも動かす
私の視界に飛び込んで来たのは眉目秀麗と言っていいほどの顔面を転がっているティッシュのようにくしゃくしゃにして切れ長の瞳の端に大粒の涙を溜めた伊達メガネの顔だった
何でそんなに高いんだよ、と突っ込みたい鼻を真っ赤にさせて、おまけにぐじゅぐじゅと馴らして薄くて綺麗な口の端をゆがめている
その唇からは嗚咽が零れそうだった
「………」
「ああ!!起きたらあかん!まだ風邪ひいてるんやがらっ」
体を起こそうとしたら慌てた伊達メガネが舌を噛んだ
口を押さえて蹲る伊達眼鏡――、忍足侑士を見上げながら、何やってんだ、と冷たい視線を送る
しかし忍足は、そ、そんな熱っぽい視線で誘っても何もでけへん!と何を勘違いしたのか畳の床に『の』と書き始めたので無視することにした
あれ?つーかなんでお前居るんだよ、と私は突っ込もうとした
どーせまた1階のトイレの窓から侵入したのだろう
いくらお前が細いからって30cmかそこらしかない隙間を通るのは危険だ、詰まったらカッコ悪いぞ伊達眼鏡と意識を飛ばしながら私は目を閉じる
忍足侑士はロマンチストなのだ
いや、いきなり話が反れて何なんだと思うだろうが忍足侑士はロマンチストなのだ(2回目)
百夜通いというのは知っているだろうか
小野小町という絶世の美女(らしい)に惚れた深草少将は小野小町に猛烈なアタックを繰り返したらしい
しかし好きでもない男にアタックされても嬉しくないのが今も昔も女のスタイルで、少将の愛を鬱陶しく思った小野小町は自分の事をあきらめさせようと「私のもとへ百夜通ったなら、あなたの意のままになろう」と少将に告げたのだ
それを真に受けた少将はそれから小町の邸宅へ毎晩通うが、思いを遂げられないまま最後の夜に息絶えた、というのが百夜通いの話だ
まぁもっと深く掘り下げればもっと崇高で複雑な日本文学たる恋愛模様があるらしいのだが忍足や兄と違いリアリズムを貫く私はそんな話など興味ない
興味があるのは深夜トイレに行こうとした私の目の前に(正しくは1階のトイレの窓から侵入しかけている)忍足侑士の存在だった
始めはびっくらこいて110番と家庭相談所に電話したりもしたけど、話を聞けば百夜通いの話を聞かされ、途中から起きてきた兄も巻き込んでの告白を聞かされた
――百夜通ったら、俺の恋人になってくれ!!
ぶっちゃけ、その時告白にOKもNGも出さなかった身としては込み入った事を言っちゃいけないのだろうが、まずその告白の前半部分は要らないと思う
あと百夜も無断で不法侵入してれば私も法律が黙っちゃ居ないし、近所のお人だって通報するだろう、未成年とは言え守られるべき理不尽なルールの中で生活するなら度を越えた理不尽を他人に合わせてはいけない
まぁ置いといて、そんな絶叫告白をしたワリには是非を言わせる暇も与えずそそくさと帰っていった忍足が何百回と、それこそ一日も開けずにやってくれば小野小町もさほど驚く暇も無く慣れてしまうだろう
1年を超えた今では住居不法侵入もストーカーも家族公認だ
ココまで愛されているんだから大切にしてあげなさいとエコロジカル・ロマンチストの兄貴は熱弁を振るうが捨てても捨ててもリサイクルするどころが新しいものをプラスして持ってくるストーカーに私のキャパティシィは日々オーバーヒートだ
しかし冬の寒い日だろう近所でモノホン(忍足も充分本物だが)の変態がうろついていてもが1階のトイレの窓を閉めない私も私だ
慣れって恐い
「ホンマいっつも言ってるやんか、帰ったら手洗いうがい、ミューズとイソジン!!風邪は普段の行いが一番大切何やからな!!……んで、おかゆ食べれる?侑ちゃん頑張るで!大阪人は粉モンしか作れへん言うけど俺は違うからな!!お好み焼き風おかゆ作ったるからまっとってや!!」
と、今まで意識を三軒向こうの芥川クリーニング店当りに飛ばしてた私に忍足は意気込んで立ち上がった
後々考えれば熱に浮かされた体がどうしてこんなに早く動いたのかは不明だが私は忍足の片足付いている方の足を力強く掴んだ
忍足は畳の上にもんどりうった
音は地味だったが、痛そうだった
「……何すんねん」
「――――」
倒れたまま呟く忍足
低くやたら脳髄に響く声が涙声だった、……という事はあの溜まっていた涙が一気に溢れたのだろうか
どうでもいい、本格的に脳味噌が沸騰してきた
眩暈と動悸で頭がおかしくなりそうだ
「夏風邪なんて嫌い」
「……あの、手を離してくれへんと立てへんねんやけど」
「大ッ嫌い」
「……あの、俺に言われているみたいで気付くんやけど」
「ホント嫌い」
「出来る頃なら他ントコをにぎにぎして欲」
「死ねばいい」
「ギャー!!、痛痛痛ッ握りすぎ握りすぎ!!ごめんなさいごめんなさい!!もう言いません!!ごめんなさい!!すんませんでした!!」
忍足の足(踝だろうか)を握る手が熱い
元々扇風機しかない部屋だ
窓の端につけられた風鈴は職務怠慢を起こして動きすらしない
夏
夏夏夏
青い空に白い雲
蝉が五月蝿い夏
頭が、ぐらぐらする
「ホラ、……もう足がスゴイ事なってるし、赤い痣……、しかもお前の手も……わ、スゴッ、体もこんなに熱いやん!!」
「……」
「夏風邪は性質悪いからな、ゆっくり寝てい、お好み焼きのおかゆ一杯作るし」
「―――――」
夏風邪なんて嫌い
どれだけ君の肌が恋しくても
粘りつくような熱が抱きつく事を許してくれない
「海に行きたい」
「な、なんや…いきなし」
「湖に行きたい」
「……うん、うんそうやなぁ、ザッブーンって湖もいきたいなぁ」
「シャワー浴びたい」
「……それは、風邪治ってから」
「とりあえず、涼しいところへ行きたい」
「んー……じゃ下のリビング行くか?西日でここよりはまだ涼しいで」
「忍足、暑い、ひっついてるの暑苦しい」
「わかった」
何をわかったというんだ、と私は泣きそうになった
やっぱり風邪なんて引くもんじゃない、と私は忍足の腕の中で泣く
身体の外も中も溶けそうななほど熱くて汗でべたべたする
きっと脳味噌は原型を留めていないんだろうと、私は思った
「―――冬になったら、手ェ繋いでいいって事やんな」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で忍足が笑う
お前さっき何聞いてたんだ、と私は突っ込みたかったがもう体がダルっちいので何も言わない事にする
忍足の頭蓋骨には何も入っていないのだろうきっと
そしてこのまま溶け合ってしまえば、それから瞬間冷却で固まらせたらトイレの窓を開けなくとも間違った方向に擦れ違う私の片想いも終わると思った私も脳味噌がなくなってきたのだろう
別に自分を絶世の美女と言うつもりは一切無い
しかし、小野小町だって、始めは鬱陶しがっていた恋でも次第に惹かれるのだ
それが初めから惚れていただなんて
一体この想いを火照る身体のどこにもっていけばいいのか
――ああ!!もう!そんな無防備な姿せんといて!襲いたくなるやんか!!!とガッツポーズで悶える忍足に、どうせ元気でも何もしないくせに、と私は呟いた
季節は何度も言うが夏
蝉が五月蝿く、無風の私室に二人きり
恋はまだ始まらなかった
その後脱水症状でぶっ倒れた私たち二人をエコロジカル・ロマンチスト・ちょっぴりシスコン☆な兄貴が発見しまた大騒ぎになって私の疲労は倍になる
やっぱり夏風邪なんて大嫌いだ、アホ
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