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多分、俺は生きていてはいけないのだと痛感する

別に世の中なんて関係ないし、見も知らずの他人が自分をどう思っていようとそんなには関係ない(女の子は別だけど)

しかし他人がどれほど自覚していないとしても、白髪の丁髷にヘタレと命名された俺の性格としては無意識とは言え自覚症状から来る罪悪感には耐え切れない

何だか自分でもよく判らない解説なのだが、補足説明的にすると俺は雨男らしい

ぶっちゃけ意味のわからない前フリだが、そもそもの始まりが今から17年前の俺の誕生日、神奈川県に季節はずれの台風11号が直撃し、俺は床上浸水する分娩室の中で生を受けた

それからは悲惨で幼稚園の入園式はどしゃぶり、初めての運動会は何もしないにも関わらず三日延期になったし、学芸会は屋内での発表だったハズだが本番中に新築の校舎が雨漏りしだした為中止になった

不安になった母親が近くに住む幸村明神という神社に駆け込んだ所、前世に俺が龍神の髭を一本抜いたという罪により(何だソレ)祟られているらしかった

だったらどうしたらええねん、という俺の心の突っ込みに返ってきた台詞は龍神が飽きるまで待て、という中途半端な返答で、結局はどうにも出来ずバケツをひっくり返したような夕立の中母親と帰って行った思い出がある

俺が生を受けて17年経った今では龍神も適度に飽きてくれたらしくぶっ飛び!!と言うのような天候の変化はないが、イベントや用事事には8割の確立で雨が降る

そんな訳で心を痛めてしまうのだ、超不本意ながら



「明日、晴れるといいな」



いつものように無表情で

でも少しだけ楽しそうな白髪丁髷の顔を見ると余計に

……勘弁して欲しい





◆3毒、ドタバタ七夕(時間が遅れた上に雹夢じゃなくなったぜ)SS◆





雨が降っている

まるで、生徒会室の大きな窓に恨みがあるという程にその礫は冷たくその身を叩きつける

そんな音も結構鬱陶しいのだが、雨が降っていると自然に気分が落ちてくる

勿論、天候如きにアドバンテージを揺るがされるような甘い感情は持っていないし、今まで生きてきた時間から考えても今ごろの季節に梅雨前線がせまっくるしい日本に停滞する事も知っている

それを梅雨というのもイヤと言うほど知っている

まぁどんな状況であろうとも任務を実行し、どんな状態であろうとも任務達成をもぎ取ってくる、それが霧嶋の人間というものだ



(……それにしても、湿気が酷い)



元々この生徒会室は忌野雹の意向もあり、広大でやや奇抜なデザインのジャスティス学園でも最高の位置に存在している

日当たりから間取りに広さに利便さ、冷暖房は当たり前として除湿機に空気清浄機、無論インターネットも通ってるし、ガスも水道も完全完備、部屋の隅っこには副会長が持ち込んだ小さな冷蔵庫もある

だから1週間連続で雨が降っていようがこの部屋に居れば快適そのもの

授業中までここにいる事はできないが、毎日の放課後を会議で潰してしまう身にとっては喜ばしいものだ

しかし、と霧嶋九郎は思う



冷房もかけている、除湿機もフルで2台使い、普段使わない換気扇まで回している

なのに何故だろう、このねっとりと粘りつく湿気は




「………あ、居たんだ九郎~」



ねっとりと、まるで下水管のヘドロのような声がソファーから聞こえる

忌野雹のお気に入り(らしい)真っ白いソファー、しかし本当にお気に入りなのは、今さっき死体のような声を出した人物だと言うことを九郎は知っている

……今までわかってて無視したのだが



「……なんですか、先輩」



年上でおまけに生徒会の役職的にも上に存在するその人物(死体)に九郎はできる限り優しく返答した

今でも成るべくソファーから距離を取っているので、こんな小さな声が聞こえるかはわからなかったがその人物にはこっそり聞こえたらしい

もっそりと白いソファーの上に存在する死体は顔を上げる

乱れた前髪、鼻からは鼻水が出ていて、それは白いソファーにまた別の白いシミを作っている

……私は知らない……、霧嶋九郎は呟いた



「……もう俺死んだ方が良いかもしれない」

「……何を前フリ無しに言ってるんですか」

「もー駄目だ、もー駄目だ、今まで色んな奴らに白い目で見られたり天の川の織姫様にどんだけ申し訳ない思いしたりしたんだけど!!今回はもう駄目ぽ、すっげーへこむ!!」

「何語話しているんですか…」



少し眩暈を感じながら九郎はゆっくりとソファーに近づく

ぐってりとソファー全体にその体を投げ出して、(一応)副会長はぐずぐずと愚図っていた

少し草臥れた感じの制服は押しつぶされて皺が出来ている

この学校でたった二人しか着る事の許されない紅

自分が他の生徒達から(まがりなりも)嫉妬と羨望の対象で見られている事をわかっているのだろうか(きっとわかっていない)



「まったく……何がしたいんですか、貴方」

「一切無駄な罪悪感により落ちこんでんの!!……もーヤー!!ホント俺の雨男っぷりは雹クン知ってるでしょうに!!去年のキャンプファイヤーを突然のスコール(をい)で消化しちゃったのは何を隠そう俺ですよ!!……つーか、なんだよ、最後の最後に龍神様怒っちゃって!!」

「………」

「……だから、だからあんな(俺的には)良い笑顔で『雹タン、七夕チョー楽しみだな☆』的な事を言うなよ丁髷ハゲめ!嫌味かアレは!!!」



うっわーん!!!!……そう叫んで副会長はまたソファーに顔を擦りつける

……涙、汗、涎に鼻水、消して綺麗とは言えないものを擦りつけられているソファーは悲惨にぐちょぐちょで、これは大変だと九郎は一人で思った




――ジャスティス学園に潜入せよ




裏の世界では下級の地位に当る霧嶋一族

しかし言葉上では綺麗に片付く物も、実体はたった一人の命を纏うする為にまるでセコセコと蠢く虫けらのような存在で、もう聞き飽きする程にゴミめ蛆めと何度も何度も九郎は罵られた

その言葉に当時幼く愚かだった霧嶋九郎は幾度となく傷つき、そしてそれこそヘドロのようにしつこく九郎自身の精神を蝕んで、いつしかそれは嫉妬と屈辱と憎悪が織り交じった思いに変わっていった

そしてそれは最終的に全てを屈服させてやると根底的な今に変わった




――我等の邪魔となれば、容赦をするな



上から下った命はジャスティス学園と言う忌野雷蔵が作ったと言うアホらしい施設の調査と監視だったが、それだけで済ませようなんて九朗は思っていなかった

忌野雷蔵を倒し、我が洗脳術で忌野家最強と呼ばれる忌野雹を手に入れる、聖女院学園というまた馬鹿みたいな学校に潜伏中のゆりかも使って徐々に支配を強めていく

忌野雹が失敗したあの日本征服と言う目標

自分を卑下した全ての愚民に、叩きつけてやろう

そう、思った



「……九郎、今日は何月何日?」

「7月7日です、七夕ですね」

「………天気は?」

「土砂降りです」




まだ星出る時間帯ではありませんが、と付け足そうと九郎は思ったがぐずぐずと愚図るこの人にはきっと何も効果は無いだろうと思い口を噤む

変わりにソファーの傍にしゃがみ、頭を(極力優しく)ポンポンと叩く

そして無理やり顔を上げさせて、鼻水まみれの顔をハンカチで拭いた

たったそれだけの行為に何故か満たされてしまう自分が居る

それに内心驚く




――ジャスティス学園に入学して、生徒会に入って現在、何よりも1番に驚いたのはこの人の存在だったりする

はっきり言ってこの人は無能だ

別にこの人を卑下するわけじゃないんだが、仕事が出来ないと言う言葉を無能以外で表す事が出来ないのであえて無能と言わせてもらう

実際にこの人は書類整理も出来ないしパソコンも触れない、携帯電話を持っているくせに電話とメール以上のことが出来ないから留守録設定をしていない

デジタル社会をゆるゆると逆行して生きるこの人に何をどうしたら其処までもパソコンの機能を低下させることが出来るのかと聞きたいくらいだし、寧ろデータも残さずに忌野雹のパソコンに侵入しあらゆるデータを破壊する事が出来るこの人を逆に天性のクラッカーかもしれないと神聖視したこともある

聞くところによると料理は出来ないらしいがお茶を入れるのが上手くて、裁縫は出来ないがマフラーを編むのが得意

特技である卓球はアマチュアのワクを超えてプロ並らしいが、基本的に体力はほぼ皆無でジャスティス学園の体育(20キロマラソンや10キロ遊泳)の後よく真っ青な顔して保健室に運ばれていくのを見ている

簡単に言えば一長一短という言葉が良く似合う先輩で、しかし秀でた部分が劣っている部分を覆い隠すでもなくただ持て余しているという感じが否めないのだ



「……もーどーしよ、テルテル坊主作ったらどうにかなるかな」

「さぁ」

「……絶対雹がっかりするよー、なんか今日さー電話で伐に『俺の家で笹飾ってる楽しみにしてる』って聞いちゃってさー、……何か恭介さんもわっくわっくしてるらしくて、絶対俺殺されるー……」

「…別にこの地域に雨が降ろうが台風が来ようが先輩に一切責任は無いでしょう?」

「いや俺、昔龍神の髭抜いた(らしい)から」

「………」



今のように、しっかりと真顔で(女なんかにでれっとしないで)見据えればそれなりにこの人の見目は整うと九朗は思う、身長も高いほうだ

あの容姿だけは抜群のいい忌野雹の隣に居なければこの人が思う以上に女は惹かれると思う、性格も良いし、きっと大切にだってするだろう

それでもこの人は忌野雹の傍から離れないし忌野雹もこの人を離そうとしない

これも九郎が驚いている一つの事実だ




――俺は、雹の笑顔がみたいんだ




元々、この人は某有名スポーツ大学の附属高校の出身だと聞いた

それが一年前、忌野雹に出会い、あっさりと一ヶ月も待たずに退学し、ジャスティス学園に入学した、実家も離れて、今ではアパートに一人暮らしらしい

どうして其処までするのか、どうして他人の気まぐれなんかに自分を曲げたのか

あまりにも簡単で、あまりにもあっさりと

その自由さに苛立ちを感じながら九郎は聞いたのだ

どうして、忌野雹の傍に居る?



――何となくだな、幸せそうな雹が見てみたいんだ



にこにこと笑いながらこの人は言った

いつだったかは忘れた、それでもきっとこんなにも鮮やかに思いに残っている



――気まぐれだな、きっと



そこから全てがあほらしくなった

何を自分は頑張っているんだろうと思った

こんな腐った世界でどれだけ自分が更生しようと紛争しても意味が無く思えた

むしろ、そんな事が自分のやりたい事だとは思えなくなった

何故だろう、もしも邪魔にさえなればこの人だって殺せたのに

苛立ちも憎しみも全てがあほらしくなるほどにこの人は自由だった



――先輩

――ん、何だ九郎



この人は変だ

無能でやる気もそんなに無い、やるべき仕事もやらないでいい仕事も増やしまくる

パソコンの立ち上げ方もわからないし、インサイダーをダースベーダーの進化系だと思っている

細かい作業は嫌いだが、手先は器用なのでお手玉は八つまでできるらしい

寮に入らず一人暮らしをしているので、それが結構貧乏生活でこの前学食を奢ったら大層感激された

基本無神経な性格をしているのに、ちょっとしたことで責任を感じて気にしたがる

驚いたことは数知れないし、これからも増えつづけるだろう



――認められたいです

――うん

――今まで、私を卑下した人間全て、それから……ゆりかにも

――うん

――私だって霧嶋の運命を変えられる、霧嶋如きの運命に屈しない

――うん

――強くなります、世界の誰よりも



もう誰にも自分を馬鹿にさせない、自分を認めさせてやる

家系ごときに縛られない、自分が優秀になることで変えてみせる、全てを根本的にひっくり返してやる

忌野雹よりもずっと強くなる、こんな世界に囚われないで、強く強く

まぁ考えれば考えるほど、――本当に馬鹿らしい事なのだが

気付かなかっただけで、考えつかなかっただけだ

霧嶋九朗も、嫌になる程自由だったのだ






――九郎なら出来そうだな






その時、私は救われた





「……知ってますか、先輩」

「……んー」

「七夕物語というのは日本古来の豊作を祖霊に祈る祭、今のお盆ですね、それに中国から伝来した乞巧奠が習合したものと考えられています」

「き、きこう」

「織姫や牽牛の言葉は春秋戦国時代の『詩経』が初出とされていて、七夕伝説の方は漢の時代に編纂された『文選』の中の『古詩十九編』が初出とされています、まぁ南北朝時代の『荊楚歳時記』や『史記』等の中にも記述があります」

「……く、九郎?もっと頭脳のレベルを下げてくれないかな」

「日本は『古事記』に記された『棚機津女』が有力らしいのですが、まぁ歴史など興味はありません」

「……」

「七夕伝説は知っていますよね、働き者の二人が恋愛に現を抜かし勤務を怠ったがために天帝の怒りに触れ、離れ離れにさせられた……ねぇ先輩」

「ん……んー?」

「(寝てたな……)どうして7月7日という梅雨の時期にだけ天帝は二人を会わせようとしたんですかね、天の川の水かさが増せば船渡しは船を出してくれないのに」

「……ん、たしか旧陰暦がどうとか雹が言ってたような気がする」

「ええ、でもね、本当は雨が降っても大丈夫なんですよ」

「………」

「どっかから、泣いてる織姫を可哀想と思ったのか無数のカササギが助けてくれるんです、自分の背中を貸して」

「………」

「だから、雨が降ってようがきっと短冊の願いくらい叶えてくれますよ、忌野生徒会長も満足します」



ちーん!!と勢い良くこの人の鼻を噛んで、俺は言った

無論ソファーはべとべとだ、このタイプのソファーはカバーを取り外せるタイプではないからきっとココだけかぴかぴになったままだろう

まぁいい、忌野雹だってここに緑茶をこぼしていた

多分、自分しか知らないが



「……九郎はいい子だな」

「……どうも」

「でも恭介さんの怒りが収まってなかったら俺はどうなる」

「クロスカッターくらいなら耐えられるでしょう」

「………」



ザァザァと生徒会室の窓を割るような勢いで雨が降る

このままではきっと夜になっても止まないだろう

天の河は溢れてしまう、……まぁ宇宙の星が雨で濡れるなんて現実的にはありえないがそれは黙っておく



「安心してください、その時は背中に乗っけて病院まで運んで上げますよ」



きっと川べりでぐずぐず泣く貴方に耐え兼ねて

織姫には程遠い容姿と泣く理由、それでも私は耐え兼ねて渡してやるのだ

自分の背に乗せて、涙が乾く向こう岸へ

その場所に、忌野雹(あとゆりかと鑑恭介と一文字伐)が居ない事願う




「……じゃあ、付いて来いよ、今日伐に御呼ばれしてるんだから」

「本気で言ってますか?霧嶋の人間が忌野の家に行くなんて」

「結構マジっすけど……?」

「……やっぱり面白い人ですね」

「ふーん……」



もっと強くなりたい

その願いは逢引で少々気前がよくなった男女如きに任せるわけには行かない



「さぁ先輩、早くソファー誤魔化さないと忌野生徒会長来ちゃいますよ」



ゆっくりとこの人の腕を引いて体を上げる

ぶちぶちと、まだ不安と文句は足りなさそうだが直ぐに立ち直るだろう

しかしまだこの人がブチブチ言う間は忌野雹よ、来るな

誰も知らないだろう、カササギが同情以上の気持ちでその背中を貸していようとも

まだまだ、この思いは九郎の物だけなのだ



天を仰げば千の星

可視のものも不可視のものもあわせて沢山

その中で1番輝くように、もっと強くなりたい、もっと強くなる

誰にも教えない、たった一つの自分のやりたい事

胸の奥に閉まったまま



未だに恨めしそうに窓を睨みつける瞳を見つめつつ、ゆっくりと九朗は背中に手を回した

久しぶりに笑いたい気分になったのも、また秘密にすることにした




end
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コメント

くろー…!!

2006-07-10 00:33

…と読んで苦労と書く、と信じて疑わない篁です。いきなりコメント済みません(土下座)
ああもう、何から言ったら良いのか解りませんがやっぱりzuizuiさん神と奉らせて下さい(勿論幸村さんと並んで下さい)
右腕君可愛すぎませんか…!!いや、可愛いのは七夕を楽しみにする雹なのか!?そして鵲の橋になる九郎は愛でてやりたい心地で一杯です(真顔!)

ブック、大変な事になられたようで…!うちはMYアルバムがエラーになって入れない状態がかれこれ1ヶ月続いています。いい加減ストックルームから引っ張って来るのにも苛立って来ました。フォレストさんしっかりして下さい…(本当に)
復旧作業、大変かと思いますが頑張って下さいね!ではでは(ぺこり)
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