ひとつの綻びで崩れていく世界でありながら、正常であれば退廃するほどに永遠と続く中のたったひとつである自分と、現実という確固たる存在の住人である少女との時間には差異がある。
虚実の世界を恐ろしいほどに過ぎ行く流れですら少女にとっての一秒足りえない。
少女が大人へなる為に、いったい如何程の時間が必要かなどは考えたくないが、生も死も現存される彼女の内部が老いていくことも崩れていくこともまた非なる時の流れによる。
少女が少女である限りどうなろうともこの忠誠は変わることない(プログラムが心変わりを許す筈もない)(俺も許さない)虚構の世界で触れる唯一の現実が失われることなどあってはならない。堪えられない。見たくもない。
時は時ではない。操作ひとつで増えもするが減りはしない。世界に過去はない、未来がひたすらに続く。
256倍の世界を生きようとも、少女と会えない時間が増えるだけだ。
「わーんちゃんっ」
親であり、何よりも信奉する犬養博士がプログラムした精神は、時に脆弱でどうしようもなく苦しい。博士が0でしかなかった自分達にこんなものを求めなければどこまでも生きて死んでいた。少女に会っても動かされることなかった。少女を破壊していた。少女に救われなかった。
生きたくもなかった、死にたくなかった。
永続の平和といつ現れるかもしれないバージョンアップされた自分の代役待ち続けるにはまた長い。
少女との別離より辛いものはないが、やがて取り込まれる静寂でさえ。
その時少女はどうなっているだろう。
世界よりも誰よりも輝いて見える日が来るだろうか。
古い自分が書き換えられるその前に。
「じゃあ、また明日」
お前に会うまで何年待とう。
「ああ、明日」
きっと待てるさ、会えるなら。
現実世界の一秒がコムネット世界256秒と知ったときのSSS。
いや、ちゃんと明日来るなら何年もかかんねえけど、会えない日が続くと大変だね、わんこ!
せつない。
(脱兎)
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