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素直じゃないと思う

しかし、そこが好きだと思う




◆3毒・番外、~いつもまでも、君を~◆




世界は平和だ

放課後、バタバタと教室から生徒あわただしく出て行く中、俺はぽつり、と思う

この窓側の席から見える、四月に校門を彩った桜はすっかり散って葉桜になり、蝉の音もそろそろ聞こえてくる

その前に、長く短い梅雨という季節もあるのだろうが、とりあえず今日は晴天なり

隣の席の男子はもう学ランでは暑いのかカッター姿で今日も元気に『恭介ェェ!!』と叫んで隣のクラスに行ってしまった、それを少し困ったように見つめる眼鏡の長身男は、それで微笑んで帰り支度を始めている

右斜め上、丁度クラスの中心の位置に席を置く超絶美少年は人一倍ブラックな近づくなオーラを出しつつ、絶叫男だけでなくクラス全体に無視を決め込んでさっさと帰ってしまった

―まぁ放課後だ

学生の本分は勉強と言うが、全ての教科予定が終わり、家に帰るまでが授業という訳ではない太陽学園の放課後の過ごし方は人様々だ

別に部活動に属しているわけではなく、(中学は卓球をやっていたけど)帰宅部な俺には放課後の拘束は無い

しかし、俺には約束が在る




「何ボーっとしてんのよ」




少し甲高い、それでも女子にしては少しハスキーな声が上から降ってくる

俺は頬杖をついたまま上を見上げる

少したれ目の、やや茶が混じった瞳とぶつかった




「聞こえてる?なーにーぼーっと、し、て、ん、の!」

「……聞こえてる、ラン」

「なーんだ、聞こえてるのならさっさと返事しなさいよ!無駄に大声上げちゃったじゃない、あー疲れた!」


そう言ってラン、―――ひびき蘭はガシャンガシャン!と肩にかけていた大きな撮影用機材を俺の机において、それからガタン!と大きな音を立て前の席の椅子に座った


ひびき蘭

茶が混じったタレ目の瞳、白い頬の上に出来たそばかす

藍が少し入った黒髪のポニーティル、――暑いのかカチューシャのように眼鏡で前髪を少し上げている

制服の下のスカートは他の女子と一緒なのだが、上は女子制服のベストの代わりに少し厚めの袖なしジャンパーを着ている(これは暑くないのか?)

腕には赤い腕章、白抜きで「太陽学園新聞部」

あの美形の風紀委員長ですら敵に回すことを良しとしない、新聞部のスクープ少女

個性的なキャラクタの多い太陽学園でも1年から3年まで色んな意味で顔を知られているひびき蘭、――俺はそんなひびき蘭の幼馴染だったりする




「………今日は、何処行くんだ」



俺は言う

ランは、ばっかねー、と俺の頭を一回叩いて、そのまま手を団扇のようにして自分に風を送る

やはり暑いのか、そんな事を思いながら俺は机の中から透明の下敷きを出してランに風を送った

風が心地よいのか、ランは俺に笑みを投げた




「ふ、ふ、ふ、今日こそ『運動神経抜群の風紀委員長!クラブ無所属の訳を語る!』のスクープを物にするのよ!!」

「……今日も鑑君の所?」

「そうよ!最近はあの絶叫男に色々と邪魔されたけど今日こそは私が勝利するのよ!ふふふ!あの絶叫男が私の目の前に跪く様が見えるわ!」



おーほほほほほほほ!!

教室にランの高笑いが響く

とりあえず、俺はランに風を送るのを止めて、教科書が入った鞄に入れる

それから椅子から立ち上がり機材と鞄を一緒くたに肩にかけた

ふいにランのタレ目と瞳が合う



「……行くんだろ、鑑君の所」

「え、――ええ!勿論!ちゃん付いてきなさいよ!!」



立ち上がり、意気揚々と教室を出て行くランを俺は追う

ふと窓の外を見ると葉桜が風に揺れていた



――ランちゃんって、恭介のこと好きなんだって!



少し頬を上気させながら、ランの(たしか)友達、若葉ひなたさんが委員長さん(本名は知らない)に伝えていたのは確か一週間前の奇しくも放課後の事だった


――何を言ってるのかしら、ひなたさん

――だーかーらッ、ランちゃんが恭介のこと好きなんだよ!!



もー、ランちゃんッたら隅に置けないなぁ!そう言ってニコニコと若葉さんは嬉しそうに笑う

俺は若葉さん(というか、俺はクラスの男子にも女子にもあまり交流が無い)の存在を良くは知らないし、多分ひなたさんも俺を知らない

まぁランのキャラクタが強すぎるのと俺が地味すぎるのとあいまって誰もひびき蘭に幼馴染がいることなんて知らないだろう

そんな訳で、若葉ひなたさんと俺に関連性は無い、そして同じクラスでもない

だから、その台詞が、聞こえてきたのは偶然だった



――言ってたもん、ランちゃん、恭介がすきって

――本当に?ひなたさんが言わせたんじゃなくて?

――ランちゃんが私の言う事聞く訳ないじゃん!それに言いたくなかったら言わなきゃいいんだもん



なるほど、と俺は若葉さんの声を聞きながら何となく納得した

ランが言いたかったから言ったように、俺も聞きたくなかったら聞かなかったらよかったのだ

いつものように、放課後ランに付き合って取材を手伝わなかったらよかった

いつものように火曜の6間目は移動教室だからと、ランが帰ってくるのをランの教室で待たなければ良かった

さもありなん、こんな感じで17年間続いた幼馴染に対する片思いは幕を閉じた




「―――ねぇ」

「………何だ、ラン」

「何だじゃないわよ!ちゃんとついてきてるの!?」

「………ついてきてる」

「後ろじゃ見えないじゃない!うっとうしい!」

「……ラン、ランがついて来いと言った」

「~~~ッ、もういいわ、ちゃんとついてきなさいよ、アンタ大事な機材持ってるんだから!」

「……わかってる」




――思えば俺の17年間はラン中心に回っていたと思う



そもそもの付き合いはまだ自分でシモの世話も出来なく、四つんばいを通常移動としていた頃から始まる

小さな頃、ランは何故か俺のものを何でも欲しがった

俺はなるべくランが欲しがったものをランにあげるようにしたし、クマのぬいぐるみもイチゴのショートケーキも戦隊もののレアカード前輪が外れたの電車模型も薄汚れた絵本もへたくそなランの似顔絵も俺が食べたアイスの当り棒だってあげた

そうする事により必然的に俺の部屋からモノは無くなり、さし迎えのランの部屋はモノに圧迫されてきた

その頃も(今も)俺は物欲の少なかった子供なので別にモノが無くなっても部屋が広くなってランと一緒に遊ぶスペースが増えるなら構わなかった

しかしベッドとか本棚(中身の本は全部ランにあげた)が欲しい、とか言われたらどうしよう、ランの部屋まで持っていけるかどうか、父さんに手伝ってもらえばいいか

そんな事を思っていたりしていたある日の事

ランは死んだ母さんの形見の指輪が欲しいと言った

俺は、生まれて初めてほんのちょこっと、ほんのちょこっとだけ悩んで、それからランにいつものようにあげた

どうせ母さんに「あげたい人に上げなさい」と言われたものだ

当時小学2年生だった俺は本当にいつものようにランに上げた

しかしランは怒ったのだ

怒って、叫んで、泣いて、喚いて、俺の頬を一発打って、そして差し向かいの自分の家に帰っていった、全速力で走って

俺は打たれた頬を抑えながら何故ランが怒ったのかわからず(はっきり言って今でも判らない)急いでランの家に行った

しかしランは玄関のドアすら開けてくれなくて、その日は仕方なく俺はとぼとぼ帰った

次の日、ランは朝早く俺の家に現れた

そして俺の部屋に次々と今まで俺が上げたもの(まぁあげたショートケーキは帰ってこなかった)が運ばれた

アイスのあたりつき棒を見てこんなものまで取ってたんだ、と思いながらランを見ると真っ赤に目と目元を腫らして、もういらない、とだけ言って去っていった

俺は一気に狭くなった部屋と溢れるゴミにボーゼンとしながらランの去った後を見つめた

はっきり言ってクマのぬいぐるみも戦隊もののレアカード前輪が外れたの電車模型も薄汚れた絵本も俺が食べたアイスの当り棒も俺にとってはゴミだった

ランが欲しいと言った時にはあんなに光り輝いていたのに

俺は小学2年にして何とも切なくなり、その日の学校は休んで部屋の整理に没頭した

まぁランが返したもの全部が青いビニル袋行きになったから昼には終わった

そして理解した、俺はランが全てだということに

まぁ俺が好きということを理解してからランは俺のものを欲しがる事も無くなった

それは丁度その時期と重なるようにランがたまたま撮った写真が街のスクープ大賞をとって、ランがそっち系に目覚めてしまった事にもよる

しかしランの写真にかける情熱は見てて清々しい、好きだ

だからランに「私の助手やってくれない?」といわれたときは嬉しかった

ランが名門新聞部のある太陽学園に入学したいと言った時はほいほいとついて行った

それでいいと思った

それでいいと思ったから、ランの傍に

だから、ランが誰を好きであろうとも、俺は構わない




「――ちょっと、聞いてる?」




ランのハスキーボイスが響く

俺は意識が飛んでいた事に気が付いて、ランのほうへ向いた

小さな頃は同じくらいの背丈だったランの頭は俺の胸の位置に当る

俺は聞いてる、とだけ言った




「嘘、じゃ、今私何て言った?」

「……鑑君の所へ行くんだろ」

「馬鹿!」



また頭を叩かれる

俺は少しずれてしまった機材をもう一度肩にかけなおしランにごめんと謝った

ランの眉尻が寄せられる



「もういいわ、!行くわよ馬鹿!」

「……ああ」

「~~~もう!早く行くわよ、逃げちゃうわ!」

「……そうだな」



鑑君逃げちゃうもんな、ずっと追いかけないと

背中引っ付いてるだけじゃ、駄目だよな

そんな言葉を飲み込んで俺はランの背中を追う

うちのクラスの眼鏡の男子には背丈は勝てないが、きっと鑑君を蹴り飛ばすくらいの力はある

だから、ランの背中を追う

これからもずっと



「……ったく、ふざけんじゃないわよ、バーカ」

「………どうした、ラン?」

「何でもない!!」



右見て、左

歩く君は振り返らない

僕は君を求めない

だから今日も君の背中を見つめてる

届かないこそ、愛してる

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