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「それじゃあな」




そう言って苦笑いで去っていく真田先輩に、また私も苦笑いして手を振った

少しだけ躊躇いがちに開かれた部室のドアから見えた外は生憎の雨でなんて新しい門出に似合わないんだと思う

それでも真田先輩は傘を持っていないのに部室から一歩歩いた

ドアの隙間を凝らして見ると、見えたのは真っ赤な色の小さな傘で、その二人分には狭いであろう傘に真田先輩は入っていった

――悪い事しちゃったかな

そう思って、謝罪の言葉を出そうにも部室のドアは閉じられ、私は一人きりだった




「あーらら、振られてらぁ」





突然ガチャリ、と開けられた裏口の音と、狙い済ましたかのように間延びされた声に私は振り返らずに黙る

ガリガリ、と頭を掻く音もでかい立海テニス部の新部長はどすどすと無神経に近寄ってくる



「うるせえよ、存在が」

「口わりー」



何がおかしいのかぎゃはは、と赤也は笑う

私はちっともおかしくないので、振り返って賛同なんてしてやらなかった

ザァザァと雨音だけが響く




「しらねーの?」

「何が」

「真田副部長に彼女いること、しかも7歳年下の、あり得ねーよな!つーか犯罪?」

「30くらいになれば自然になるでしょうよ」

「知ってたんだな」

「真田先輩のことだもん、知ってる」




私は視界の端にちらちら浮かぶ赤い傘を思い出す

とても小さな傘だった

今思い起こすともっと小さいような気がする

しかし持っている女の子がとても小さかったから

赤い傘が視界の端を離れないのだ




「すき?」

「真田先輩がね、大好きよ」

「ロリコンの老け顔が?」

「子供好きの大人びた顔立ちの人よ」

「暴力ふるうんだぜ」

「相手の非を正し、自分の信念を曲げない人、素敵」

「美化しすぎ」

「恋は盲目だもの」



私はふうとわざとらしくため息を吐いた

初めから真田先輩がどれほどその女の子を大切にしているかどうかなんて知りすぎているし、私の思いに気付かないのも知っている

気付いて欲しいだけだから、なんて言って雨なのに、卒業式なのに、時間が無いのに部活に呼び出して、好きって言って

困ったような顔をする真田先輩に、うそですも言えずにゆっくりと振られた

本当に盲目だ

好きに気付いて欲しい、じゃなくて、好きになって欲しいって思う自分の気持ちに気付けないなんて




「俺じゃ駄目?」

「寝言なら寝ていって」

「マジで好き」

「ごめんなさい」

「……マジだって」

「だったら余計無理」



ちらちらと赤い傘が揺れる

最後のチャンスだと思った

彼の優しさに漬け込もうと思った

でも、私は雨の中走ることが出来なかった

私には雨を防ぐものを持っていなかったからだ

悲しいとは思わなかったし、辛いとは思わなかった

ただただ切ないだけだった

それは、まだ今も同じ

まるで自分で自分の胸を引き裂く感覚だ



「ネクタイくらい引きちぎっとけば良かった」

「未練やろー」

「上等じゃない」




この思いが叶う事なんて無い

成就なんてもっと無い

消え去る事も出来ない思いは、忘れる事もなくずっと胸の中に

この雨が止みさえすれば、もう雨の降ることも無いだろう




「こんなに好きだったとはね……」




それに気付けない私は、やはり見えてなかった

恋は盲目

だから、この思いはこのままに


負けず嫌いの私の苦笑いは赤也になんて見せずに、私は雨の中、傘もささずに威風堂々と歩いていった




旧日記から真田悲恋話

何気にマイスィとパラレルリンクしてるところが笑えた

ついでに、3/1の卒業式話

今見ると切ない



(脱兎)
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