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(♀ルルーシュ捏造)
(なぜかジェレミアがくっついて日本にきています)


 穏やかな気候のブリタニア帝国と違い、ここ日本の夏場はひどく暑い。品のないじめじめと土臭い湿気と遠慮なく照り付ける太陽。
 下品な小猿にはお似合いの気温だが、ジェレミアの大切な大切な姫君達にはまったく合わない。
 現に、薄い桃色の七分袖からちょこんと出た白い肌を見る度ジェレミアは落ちつかなかった。
「ナナリー様、暑くありませんか?お部屋に戻らずとも平気ですか?」
 部屋というにはみすぼらしい土蔵は、何度清潔にしてもほんのりカビ臭く不健康そのものだったが、こんな日の下よりはマシだろう。
 ジェレミアはさりげなく提案してみるが、妹君は大丈夫ですと笑っただけだった。
 ――ここがアリエス宮であれば。ブリタニア帝国であれば。この玉の肌を守る日傘もあったし、何より皇帝陛下の庇護が貴女様方を守るのに。
 しかし、ブリタニア帝国に捨てられ傷ついた我が主の矜持を臣下がどうこう進言するわけにはいかない。
 己の額から流れる汗を無視し、車椅子に座った妹姫から日を守るようにジェレミアはパラソルの位置を調節した。
「ナナリー様、ナナリー様。お加減は宜しゅう御座いますか?」
「ふふ、先ほどからそればっかりですよジェレミアさん。ジェレミアさんこそ暑くありませんか?」
「私は大丈夫です。私は暑いのは平気なのですよ、寒い方が苦手でしてね。いやはや、お気になさらず。」
 胸元をやや開けた(本当は閉めていたかったが、主君に暑苦しいと言われた)日本人の庶民服から出た肌は焼け、暑さににじんでいたがジェレミアは笑ってごまかした。
 部屋に戻りたい。いや、暑いからとかそういうわけでなく、ナナリー様、ならびに主君の柔肌にはこの気候は適していないのだ。姉様が外へ出るなら私も、と滅多に言われないかわいらしい我が儘を言った妹君にジェレミアはイエスユアハイネスと了解してしまったが、今は後悔ばかりしている。主君は主君でどこかに出かけたらしく(枢木の敷地とはいえ、主君のような可愛らしい御子が誘拐される可能性はないとは言えないのに)それに対してもジェレミアは落ち着かない。
 すぐに主君を追いかけて行きたかったが、付いて来るなと言われてしまった。臣下たるもの、主君のプライベートに入ろうなどとはもっての他であるが、少し寂しい。
 しかしその後すぐに私もとねだった妹君にジェレミアの感傷は飛んだ。早く早くと笑う妹君に、ならばせめて日傘をと、日本人から与えられた土蔵をひっかき回して少々でかい陳腐な色のパラソルをジェレミアは見つけた。
 誇りまみれの上煤けていたが、無いよりましだとばさばさやってから妹君を中に入れる。
 下品な色だ。日本や枢木家のものは全てそう称さないと気がすまないジェレミアはパラソルに毒づいた。
 だが眩しくないか暑くないかと心配するジェレミアを妹君はころころ笑ってくださる。
 なんという思いやりにあふれた方だ。さすがは我が主の妹君。マリアンヌ様の御子。
 そう笑うジェレミアの穏やかな空気に突然雷が走った。
「ジェレミア!!」
 悲痛と罵声が混ざったような声が土蔵まで響く。妹君に向けていた顔を反射的に上げると、腰まで届く黒髪をたなびかせた我が主が、その繊細な姿に似合わないようなどすどすという音を立ててこちらへ向かって来ていた。
 ラベンダー色のワンピースから覗く足は頼りない程白くて細い。ジェレミアは臆面もなく悲鳴を上げた。
「あ、あああ危のう御座いますルルーシュ様っ。私が向かいますゆえしばしのお待ちを!!」
 パラソルを手で支えているのも忘れてジェレミアは叫ぶ。
「何が危ないだっ走っているだけで!!それよりナナリーになんて事を!!」
 ジェレミアの主君、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。捨てられた皇女。そんな主君は、もう唯一の家族と言っていい妹君をひどく溺愛していた。
 妹君はご尊母であるマリアンヌ様の事件を目撃したため、目と足が不自由だ。そんな妹君の世話を臣下であるジェレミアに任せてくれることは大変な名誉であったが、めったに見ない主君の必死さにジェレミアは背中が冷たくなった。
 しかし、主君は情けなくパラソルにしがみつくジェレミアなど無視をし、愛しい妹君に飛び付いた。
「ナナリー、今すぐ部屋に入れっ夏の暑さに当てられては大変だ!!」
 どうやらジェレミアと同じ心配をしているらしい。
 主君は車椅子の柄を持ち、妹君を安全な部屋の移動させようとした。ジェレミアがわたわたと私がやりますと言えば、皇帝陛下譲りの紫電がぎらっとオレンジをにらんだ。
「ひ……っ」
 蛇ににらまれたカエルだってこんな声は出さないだろう。
 そんな臣下を不憫に思ったのか、妹君も珍しい厳しい調子で姉につめよった。
「もうっお姉様ったらいきなり。……ただいまの挨拶もありませんの?」
「……っ、悪かった、ただいまナナリー。しかしダメじゃないか。外は暑いから部屋に居ろと言ったのに」
 ジェレミアの三乗くらい妹君に甘い主君は少し動揺しながら叱った。しかし妹君はしらんぷりして姉に接する。その妹とかたくなさにジェレミアは主君の小さな肩がひくりとしたのに気がついた。
「私が部屋から出たいと我が儘を言ったんです。ジェレミアさんを咎めないで下さいな。」

「………しかしっ、……ジェレミア。私はくれぐれもナナリーを部屋から出すなとあれ程言ったではないか!」
 分が悪くなったのか主君はジェレミアを改めて叱る。これにジェレミアは深く頭を下げた。主君の言い分に正しくないは必要ないのである。
「申し訳ございません。お怒りはご尤もでございます。どのような罰も受けますので……」
「ジェレミアさんったら」
 己の非だけを認める臣下にもうっ、と膨れたように妹君は言った。穏やかな性格と思われがちな妹君は、アリエス宮時代は姉君より活発な御子であった。マリアンヌ様の少々破天荒な性格も妹君の方が濃く受け継いでいる。
 そんな妹君が臍を曲げたというのは大変なことだ。妹君を溺愛する我が君にとっては。
「な、ナナリー……?」
「お姉様こそ……、ジェレミアさんが外は暑いから出てはいけないとおっしゃったのに……。それにお出かけの時にはかぶっていらっしゃったラベンダーの香りがするお帽子、何処に置いてきたのですか?」
「そ、……それは。」
 スザクが。
 ジェレミアが一番聞きたくない名前が我が君からこぼれる。
 活発とは無縁の主君が土蔵を飛び出す理由は一つしかない。
 枢木スザク。日本の現総理大臣枢木ゲンブの嫡子であるにも関わらず、外見も中身も猿そっくりのくそガキだ。
 初対面でジェレミアの主君を殴り飛ばしたという前歴を持つスザクは、その後も主君に不敬を振る舞った。幼少とはいえ、皇族になんてことをと真っ青になったジェレミアと何度も対決してきた彼だが、ジェレミアの主君はどれだけ意地悪いたずらをされても、どうやらあちらの味方らしい。その事もあって、ジェレミアは大人気なさを自覚しながらもスザクが嫌いだった。
 自分のような年も離れた臣下より、同年代に近い方が親しみも持つだろう。しかし何故かな、ジェレミアの心は重かった。
 ほとんど人質同然に引き渡される姉妹に無理を言って付いて来たのはジェレミアだ。
 贖罪のつもりでもあるが、主君は一度断った。もう自分達にそのような忠義の価値はないのだと。しかしジェレミアは日本にいる。
 だが当然ジェレミアはマシンでもサイボーグでもない、食べるものを食べないと飢えるし、寝転べば場所を取る。枢木から出される食事は二人分しかないし、ジェレミアも主君の膳から分けてもらうはいかないのだが、心優しい妹君が許さない。
 妹君は自分が寝る小さい布団にジェレミアを入れようとするし、勝手に付いて来たジェレミアに自由も与えようとする。
 あまりの優遇に涙が流れたが、そんな真似を皇族にさせるわけにはいかない。少しでも良い暮らしをと夜こっそり抜け出して、イレブン共に混じりながらジェレミアは働いていたりするのだが、あまり上手くはいっていない。元貴族、捨てたと思ったなけなしのプライドがいつも邪魔をする。
 主君が着るラベンダーのワンピースや同じ花のが挿さった帽子はジェレミアが世話の合間にした労働の末に買ったものなのだが、アリエス宮で二人が身に着けていたものと比べると紙の方がまだマシな気がする。
 しかし臣下として主に不憫な生活をさせることが悔しくて、自分の無理が腹立たしくて、――こちらに来て何度無力を呪ったかはわからない。
 ――戦争さえなければ、いいや、自分があの時マリアンヌ様を守れて居れば、こんなに優しいお二方にに惨めな思いは。
「……ナナリー様、ルルーシュ様も、もうお部屋に戻りましょう。ジャスミンがそろそろ乾くのでお茶の時間にしませんか?庶民のものですが、なかなか良いビスコッティが手に入ったのです。」
 ブリタニア帝国にも日本にもあの時の警備の不出来を責めるものはいない。ただジェレミアの目の前には捨てられた姉妹がいるだけだ。ジェレミアは垂れる眉をなんとか持ち直し、車椅子の柄を握り締めたままのルルーシュの手を外した。そしてそのまま自分が持つ。
 妹君はなんとも申し訳なさそうな顔をしているが、そのような表情はマリアンヌ様の御子に必要ない。
 傲慢でいい、不遜でいい。我が主にそれくらいの元気があれば――、
「え……、るるるルルーシュ様ァ!?」
 元気があればいい。そうジェレミアは天に願ったばかりだ。しかし、何とも言えない歪み苦しんだ表情をする主君は踵を帰して逃げてしまった。……逃げた?
「ちょ……待っ、ルルーシュ様待っ!!!」
 元皇族で運動が得意ではない主君にしては、ほれぼれするスピードで小さな背中が雑木林へと消えて行く。
 がむしゃらながら美しいフォーム、反射的に姫君をたたえようとする己の頭をジェレミアはしばいた。
 外は危ないのに!こんな照り付ける太陽の下全力疾走なんて体力のないルルーシュ様がいつまで持つか!!きっと持たない。持たないまま炎天下じりじり乾いて……ジェレミアたすけてなんておっしゃるのだ!!それにあんな走り方ではいつ転ぶかわからない!大切に大切に真綿にくるんでお守りしたいのに、どうしてルルーシュ様は走るのですか!?
 混乱激しいジェレミアだが、すぐに主君を追わねばならないことはわかっていた。しかし妹君をほっぽり出す訳にはいかない。わーわーと慌てている内に主君の背中はもう見えなくなってしまった。日はまだ高いが、不貞の輩は24時間フル営業なのだ。
「なななナナリー様!不敬を先にお詫びいたしますがお部屋に入って、誰もいれないようにお願いします!!わ、わ私はルルーシュ様を……!」
「お願いしますね」
 わたわたと目からオイルのような涙を流すみっともない臣下を落ち着かせる笑みを浮かべる妹君。その柔らかさに安堵とこの方を置いていっていいのかと不安に駆られたが、押し出されるように常套句で答えジェレミアは主君が消えた方角へ走り出した。




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