(書きやすさは手塚が一番)
(ゲロ甘ェ!!!)
夕暮れに照らされてじっとりと、ナメクジのように汗が這う。額から頬へ。
夏の暑さにより、少しだけ急になった斜面を伝い顎へ。
手塚の心音を聞くように当てている頭を少しだけ上に向けるとその一連の動作が良く見えた。
表情筋の活動が乏しい、どっかの後輩達には鉄だ氷だと揶揄される整った顔が、汗を掻くなんて些か信じられないが、こんな近くで見せられたら信じる他ない。(いや氷だから暑さに弱い?)(手塚は嘘なんて吐いてない)
「……暑い」
「……直ぐに涼しくなる」
クーラーの風も扇風機のコンセントも届かない縁側で何を言うと思ったけど口には出さない。億劫なだけじゃない。はず(そもそも何がどうしてこんなコアラの逆Ver.みたいな格好で私が手塚といるかなんて、めんどくさいから省かせてもらう)(めんどくさいだけ)
気温が下がるという意味での涼しさは、ぶらーんと軒先に吊されながらも、チリチリと鳴る風鈴が流れる微かな風を教えてくれる。
もう夜も随分涼しくなった。まだ扇風機は手放せないけど、クーラーは効き過ぎる。
だからといって、まだ太陽が昇る現在でこの体勢は暑い。お互いの体がどうだ!と言うほど密着している上、触れ合った部分が焼けるように熱い(この深い理由も省く)
「手塚」
手塚が。手塚が私を呼ぶ時、あの堅い低い声が、より強張ったように響くのがたまらなく好きで仕方ない。
まるで私が絶対言えない想いを代弁してくれるような気がするから。声、腕の中、合わされた背中と腹。包みこむように支えられた手のひらにはまた汗が。
「宿題終わって無いんだ」
「今年は手伝わない」
掠める声でさえ。
縁側から見える景色はひたすらにうっとうしい。伸び放題伸びた枯れ草。西日を浴び切った手塚の自転車。合間に見える転がったパンクした車のタイヤ。今大音量で響く蝉の声はいつかひぐらしに代わり、秋がやってくる。
「圭ちゃんもえ―……」
「いや、魅お」
「……乳魔神め」
「いはい」
摘んだ頬はひんやりとして、(あれだけ汗を)(かいて)堅かった。手塚の顔がより近付く。
テニスして焼けた飴色の肌。やたら長い睫毛。光を通す柔らかなの褐色の瞳と同じ色の髪、掛けられたシルバーフレームの眼鏡がかちゃりと鳴る。すっと通った鼻がじゃれるように首に擦り付けられて、一瞬だけ息を吸う。
耳に響く。
「冷たくなったか」
そんな目で、何を。
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