(真田ヒロイン夢)
(恋する女の子は忍者)
(謙信は男派)
桜よりも梅が美しく映える春の日差しをいっぱいに浴びる。まだ冷たい空気を軽く吸えば、何故かな、胸が熱く高鳴るのがわかった。
それはときめきにも似て、私が主を見つめる時と同じ鼓動が体と鼓膜を響かせている。
――春はいけないね。いい気分でいたのに、むかつく同僚を思い出した。
忍びらしくない髪色を持つそれは、ちっとも困った風では無くぼやくのだ。その顔はいつでも疲れた女のような笑みを浮かべている。それも私は嫌いだった。
「旦那が元気だ」
わが主は。我が主は春だろうが冬だろうが、常夏だろうが雪国だろうが、いついかなる時も溌剌として、その美しい生を陽光の如く輝かせていらっしゃる。主の前では影ですら日向にある。何よりも暖かなその場所で我らは息を吹き返すのだから。
そう言い返せば同僚は「お前旦那が好きだねぇ」といい「羨ましいよ」と続ける。
「羨ましいに決まってるだろう」
その理由がわからず首をひねる私を呆れたように見る女、――忍うんぬんではなく、人としても珍しい金色の髪を持つ美しい同郷は、しぶしぶながら私の同僚に同意した。
今は敵国の忍びである同郷と屋根の上とは言えのんびり語りあうのは、もう長いことなかったが、最後に別れた日以来彼女は何も変わっていなかった。少しだけ伸びた背と極度に突き出た胸以外は。
「かすがは軍神を好きなのでしょ」
この下で、我が主の主と酒を飲み交わす酒豪の二つ名を言う。同盟という一時の仮初を肴に、昨晩から飲み続ける大器は健気に帰りを待つ部下を知らない。
ちなみに我が主は夜が更ける前に倒れ、同僚の介抱にあっている。もちろん私だって介抱くらいの事はできるが、あの部屋に入る権利を私は持ってないので、久方振りに再会した同郷とあの襖が開くのを待っている。
私と違い、この同郷は部屋に入る権利は持っていたが、勇気を持っていなかった。
「ぐ……、軍神ではない!軍神様、または謙信様と呼べ!……いや、謙信様の名を呼ぶな。お前ごときが呼んでいい名ではない!」
美しい同僚は、済ましていれば月さえも凍り付く顔を子供の様に真っ赤にさせた。
好きなのだろうと思う。私よりみっつは上である彼女は同郷の誰よりも夢を見ていなかった。現実を諦め、いつか仕える主君では無く、任務の成功に命をかけようとしていた。
夢を見させたのは軍神だ。それから同郷は必死にその夢にすがりついている。目覚めたくないと泣きながら。
「軍神はケチだな」
同郷の耳がぴくりと動く。しかし思ったような反論は返ってこなかった。
もしもこの悲鳴が聞こえなくとも、顔を見ればわかる筈だ。
恋する女がくるくると表情を変えるように、自分の懐刀が自分をどんな風に見て、その一瞬に何を思い、考え、憂いを見せるのか。我が主のような朴念仁でも、同僚のような捻くれでもない癖に。失礼だが、馬鹿かと思う。卑怯だとも。
「こんな日であれば、想いが届く様な気がしてならないけどなぁ」
たとえ武道を行くことと武功を立てること以外に目が無い主でも、真っ直ぐに想いを伝えれば考えてくれる。不実を嫌う主だ、私の想いを無下にはしない。あの優しい主なら私を包みこんでくれる。私はいつも夢想する。あのしなやかな腕に抱かれる日を。
「まだ御見えも叶ってないのに無理だってー」とさらりと言った同僚の頬をおもいきりぶったのは秘密だが。
「かすが?」
美しい女が恋する男はまた格別に美しく、並べば花が舞い、輝きが増した。その光は我が主が放つような日溜では無いけれども、この美しい同郷が笑えば、あの寒い国が春のようになる事もまたわかる。わかるのだが。
「お前は……まだ幼いから」
好きと言える、と馬鹿にした美しい横顔を私は叩けなかった。
大人のような顔をしたい子と、子供に戻れない若者二人。
(真田ヒロイン(忍び)は14~17歳くらい)
(幼い頃から幸村に惚れていて(一度命を助けられた)、幸村が大好きな子)
(幸村に見初められれば、お嫁さんになれると信じてる。でもまだ幸村はヒロインのこと知らない)
(だから幸村が一番信頼する佐助がライバル(ちなみに佐助は同僚ではなく上司です))
(佐助はヒロインに苦笑い)
(もう少し若かったら、同じ夢をみていた。)
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