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恋愛は、楽しい



「ハァイ!奇遇だね!今暇かい?」

「いいえ、ちっとも」

「だったらこれから、暇あるかい?」

「いいえ、ちっとも」

「じゃあ土曜日空いてる?ソレが駄目なら日曜日」

「いいえ、ちっとも」

「俺と会話する気があるかい、お嬢ちゃん」

「いいえ、ちっとも」



眉一本、というか顔の筋肉を一つも動かさず淡々と答える少女に金髪の、少しどころかかなり良い体格のアメリカ人は苦笑する

ゴツゴツした指でその柔らかい金髪をかきあげる、そこから覗く青い、人工的ではない蒼の瞳に一般女子から少しお年を召した御姉様までに人気のソレは少女には聞かないらしく、少女はロイの顔すら見ようとしない

ロイは少し肩を竦めるポーズをして、もう一度丁度すっぽり腕の中に収まりそうな小さな矮躯の彼女を見つめた


「my dear girl……、あまり困らせないでおくれよ」

「進行を邪魔されて迷惑なのは私のほうです」

「それでも止められないのさ、この想いは」

「アメリカでは押す事が良いとされてるかは知りませんが、日本では謙虚が美徳なのです」

「俺はアメリカ人だけど?」

「私は日本人です、父も母も祖父も祖母も曽祖父も曾祖母も」



ぱっつんと眉がちょうど隠れるくらいにまっすぐカットされた前髪

すとんと真っ直ぐに落とされた髪

父に進められ、読んだことのある日本の物語のThe Tale of Genjiに出てきそうな髪型だ

まぁあの女性達は魅力的だがいささか髪が長すぎだというのがロイの屈託の無い意見なのだが、目の前の少女は腰のあたりでまた横に真っ直ぐ切られている

少し釣りあがった切れ目は氷柱よりもドライアイスのような火傷をさせてしまう冷たさを持つ

それに触れてみたいと思うのは、男の性だろうか



「話は終わってないよ、何処へ行くんだいコネコちゃん」

「私はそんな柔ではありません」

「歩くのを止めて、ボクの方を振り向いてくれないか?」

「急いでますの」

「ボクの全てをかけてお願いだ」

「興味ありません」

「答えてくれないか?ボクは君が好きだ」

「私は貴方を好きではありません」

「ボクの何が気に食わない?何故振り向いて、目を合わせて……おっと」

「前を見ないと電柱にぶつかってしまいます、貴方のように」

「だったら今度の火曜日」

「委員会です」



すたすたと去っていく少女にロイはついていく

勿論ロイの方が足が長いし、追いつこうと思えば簡単に追いつける

しかし、それはしない

彼女の背中を見るのは嫌いではない

それに



「私、貴方の暇つぶしにはなりませんのよ」

「何故だい?」

「私にも矜持があるのです、山より高い」

「ボクの愛は海より深い」

「さぞかしどんより暗いのですね、海藻とかびっしり生えて」

「Honey……」



おかしいと思う

アメリカでも自分に振り向かない女は沢山いた

それでもロイは構わなかった

好きになってくれても、ロイの浮気癖に嫌気がさしてロイの元を去った女も腐ったほどいる

ティファニーのような意外とへこたれない珍しい女もいるが世界を飛び回るロイにそんなものは関係ない

関係を持ったとしても、すぐに切れる

来る物は拒まず、去る物は追わず

ジャパンにもいい言葉がある

ロイは、この少女に対してもそのつもりだった




「愛してる」

「そうですか」




物語の、ジャパニーズプリンセスのような髪に触れたい

細い胴に腕を回して

白い肌に自分の跡を残したい

切れ目のドライアイスに口付けして

少し薄い唇には、何をしよう

先を急ぐ彼女に、何をしよう

振り返ったら、何をしよう

いつのまにか、ジャパンに来るたび会いに行く

ジャパンに用が無くとも暇を見つけては会いに行く

君が好き

追い詰める楽しさなら熟知済みだが

追いかける楽しさは、初めてだ




「I look back, and watch me(こっち向いて、ボクを見て)」





ロイは囁く

もうタイムリミットはあとわずか

そろそろ空港に向かわないと次の仕事に間に合わない

ロイは立ち止まる、少女は進む

ピリリとなる無粋な携帯をポケットから取り出して、軽く言葉を交わして切る

そしてもう一度、少女を




「Dear ogre,Come to here(可愛い鬼さん、ここまでおいで)」




ロイは笑う

携帯がへし折れるほど握り締めて大声で笑った

通り過ぎていく通行人が驚いて此方を見るほどに




「仕事が終わればすぐ行くよ、ハニー」

「結構です」

「待ってくれよ、他の男に目移りしちゃ駄目だ」

「ありえません」

「変な方向に走っても駄目だ」

「さぁ?」

「いい子で待っててくれよ、コネコちゃん」

「引き裂いてあげます」



彼女は進む、立ち止まらずに

そんな背中にわずかな爪を立てられないか

立ててくれるなら、差し出そう、この体

甘い噛み跡、ゆっくり可愛がってやろう


追いかけるのが楽しいのは、このやり取りが楽しくて仕方が無いからだ




「奇遇ですね、私も貴方の前を歩くのが大好きなんですよ、貴方の顔を見なくて済むから」




可愛くない言葉を言うのはご愛嬌

そんな瞳にキスを投げ、ロイは歩く

今度はどんなやり取りをしよう

今度はどんな言葉を交わそう

キスより甘く、ハグより痛い

君とボクの愛の形




「君が手に入ったらきっと死んじゃうね」

「だったら生殺しにしますね」

「嬉しいけど、腹上死も悪くないよ」

「今すぐ葬ってあげましょう」



首に添えられた手の甲にキスして少しの別れ

絡めたい腕は、ピシッと叩かれたので、自粛中

鳴り響く携帯は、この際へし折ってしまおう

愛の言葉は永遠に

僕らはいつまで経っても終わらない




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