(新鮮なリクでした(笑))
(愛憎かどうか不明)
(叫べばいい。痛いと苦しいと。その癇に触る顔を歪め、止めてくれと泣きさえすれば、私だって。)
意識の根幹からわき出る感情の全てがどうしても伝わらないと気付いたのは、いつでも全てが手遅れになった時だ。
遠い昔に壊され、今まさに潰されそうになっているポンプ器官は狂ったように叫び出す。鉛玉を五粒程飲み込んだような不快感を胃袋に湛えて。
(固まったように笑みを浮かべるあの顔はどうしようもなく苛立つが、少しでも曲げられた眉は簡単に心臓を突き上げる。ただ黒いだけの目に平素私を映しはしない癖に何故今だけ。一つ一つ摘むように持ち上げては捨てる仕草がどうしてこんなにも腹立たしい)
「片付けておけ」
書類に目を通す振りをして捨てた言葉を聞き、もそもそと遅い動きで私が投げたカップの欠片を拾う。避けもせず逃げもせずに額で砕けた欠片はすぱっと皮膚を切り裂いた。血は流れない。
(恭介は)
「何だ、何か文句でもあるのか?」
「ありません」
吐き出すような言葉にまたむかつきを感じる。すっ、と柔らかなイスから身を起こし、持っていた書類を床へ投げ捨てつかつかと近寄る。はらはらと白が舞う。
(私をそんな目で見ない)
地べたに座り込み、物乞いのように私を見つめる目は想像としては絶景だったが余計に苛立つだけだった。
ふと目に入った平凡な手は、床の上で少し大きめの破片を掴んでいる。
苛立ちに任せ足を上げ、そのままその手の甲の上へと落とす。
ぶつ。
欠片が刺さる音と苦々しく歪められた顔を見て、ようやく気が済んだ。
不愉快で不愉快で仕方がない。声が、目が、穏やかさを表した笑みでさえどうしてこれ程までに胸を重くするのか。
(重く零れた吐息でさえ、日々遠くなる位置すらも。(怯えていれば良いものを)いつも私から少し視線を外す目は私の危惧を代弁するようで。)(危惧?)(危惧!))
「こっちもだ」
「はい」
投げ捨てた書類を指差すとまたのそのそと起き、欠片が刺さったままの手で拾う。血はつかない。
「どうぞ」
(泣けばいい、)(叫べ)(恭介のように、私が怖いと)(そうすれば)(そうすれば私も)(お前を許せるのに)(私を見下す)(その)(………)
「可愛そうな人」
(意識の根幹からわき出る感情の全てがどうしても伝わらないと気付いたのは、いつでも全てが手遅れになった時)(だ。)
どうしてなのかは、知りたくない。
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