自分勝手に雹右腕
だんだん雹受けっぽくなってきたが、どうしよう
BL平気、キャラ崩壊平気、な人は↓
相変わらず長いです
それは夢だった
真っ白い夢だった
しかし、夢にしては、何とも言えず現実的だった
見る世界、触れる物、薫る匂い、感じる鼓動に、温かな体温
ゆっくりと、その白に手を伸ばし、俺は抱き締めた
真っ白な夢
目が覚めても、現実と見まごう事ない
とても、優しい白の夢
まるで、天国のようだった
「おい、いい加減に起きろ」
現実は、死にたくなった
◆3毒~If a wish comes true~◆
「……へー、そりゃ大変だな」
言葉の割になんて事も無いように、一文字伐は呟いた
片手には俺がコンビニで買ってきた可愛らしいいちごみるくのパックタイプ
伐が喉を動かすたびに白が良く混じる薄いピンクの液体は透明のストローを淡く染める
熱血青春、汗を涙と代弁できる(想像)一文字伐に女子高校生が飲むようなジュースは合わない、とどっか別の脳味噌で思う
場所は御馴染み一文字家
伐曰く「誰も来ないけど一応ある応接間」的な和室の雰囲気を壊すように俺は大声で叫んだ
「ああそうさ!大変さ!俺は委員長ちゃんとデート出来た事を一切悔やむことは無いがいくら疲れていたとは言え、あんなトラウマがある生徒会室の雹お気に入りのソファーの上でまた寝ちまったことを今全身全力少年的に悔やんでる!!しかもコンタクトしたまままた寝ちまったから目が乾いて乾いてしたかねぇよ!!全ては、全てはあのソファーが悪い!!」
「……そんなにバンバン叩くなって、一応この机はそれなりに丈夫に出来てるが、お前の馬鹿力には耐えられないぜ、きっと」
「うっせぇ!俺は混乱してるんだ!混乱してるから生徒会中なのに、鞄を置いたままなのに、家の鍵も鞄中入ってんのに!それでも俺は俺が目覚めとともに奇声を発した事によりメチャビビッた顔した超レアな雹の表情をじっくり見る間もなく扉を開けたら何故かそこにいた九朗吹っ飛ばしてかわゆいかわゆい春日ちゃんが『先輩、何処に行くんですか!?』って聞いても何も答えることも出来ずただただ混乱したまま中学時代50m8.21をたたき出した俊足で何故かその原因である雹が住む一文字伐んちに来ちゃったよ!!もしも雹が帰ってきて今までの俺の行動のどれか突っ込まれたら何も言えねーのに何でよりによって一文字家に来てるんだ!そして恭介さんではなく伐に相談してんだ、俺ー!!」
「……とりあえず、落ち着け、な?ホラ麦茶、冷たいぞー」
「ぜぇぜぇ……、サンキュ、伐」
俺は伐が差し出した麦茶、―――少し大きな氷が3つほど入り、キンキンに冷えた雫さんが入れてくれた美味しい麦茶を一気に飲んだ
……こんな美味しいのがあるのに、何でコイツ、俺にいちごみるく買って来いなんて言ったんだ、……常備用の小銭入れはそんなに入れてないんだぞ、おい
「や、コンビにまで歩けばお前がちょっとは落ち着くと思ってな」
「……あー、すんまそ、それほど思って頂いて」
「でも、効果なかったようだな……」
「いや、店員のおねーさんが激プリティーで内心ドッキドキだった」
「逆効果だったのか……」
そう呟いて伐は飲み終わったのか、(俺の買って来た)いちごみるくのパックをぐしゃりと握り潰した
そしてそれを和風全開の部屋(伐の私室、8畳半)にある黄色のプラスティック塵箱に綺麗に投げ入れる
綺麗にスコン、と音を立てていちごみるくは塵箱に吸い込まれた
――キミは魔法を信じるかな?
思い起こすのは3日前の委員長ちゃんとのデート中
内容はお茶をご一緒だけとはいえ、通算4回目の放課後デートの事だった
――魔法?
――そ、魔法、もしも信じるんだったら何を願う?
近くにあった喫茶店で一服中
太陽のことやジャスティスのこと、雹が聞いたら怒りそうな近況説明をした後、話題をもたせるためとしかいいようがない、それでもとびっきりの笑顔で委員長ちゃんは俺に笑って訊ねた
『魔法を信じるか』
『信じるなら何を願うか』
――だったら委員長ちゃんともっと仲良くなる魔法が知りたいなぁ
――ふふ、冗談が上手いのね
俺は少しだけ戸惑い間があいたものの、にっこりと笑って口説き文句代わりに少しふざけた答えを言った
当たり前だがそれは一瞬にして委員長ちゃんの笑顔に蹴っ飛ばされた
……ちょっぴり悲しい、しかし!!!これくらいで目くじらを立てる訳じゃない(ひなたちゃんの笑顔が可愛いから許す!)
なるべく(ショックを隠すため)平成を装いながら俺は、うーん、冗談だけじゃないんだけど、とだけ言って軽く微笑みながら目の前のコーヒーを一口飲んだ
―――もしも魔法が使えたら、何を願う?
コーヒーカップに口をつけるとともに広がる苦み
かっこつけるわけじゃないが俺はブラックが好きだ
故に必然的にその時飲んだコーヒーはブラックで、砂糖もミルクもクリィプも入れていなかったから、それなりに苦い、という事はわかっていた
しかしその時は、そんな苦味も気にせずにイチゴのショートケーキを上品に食べる委員長ちゃんに釘付けだった
だから繰り返された質問に、冗談交じりで違う答えを返したのだった――
「夢を、見たんだ」
回想から戻って現実
その現実の重さに俺は机に突っ伏した
胡座かいて座っているとは言え、固いし、横に飾彫りが入ってるような机だ
手も付かず、勢いも消さなかったので額はごん!と音を立てた
「雹が、女の子だった」
――雹を姿形性別ひっくるめて、女の子にするね
あの時委員長ちゃんに冗談交じりで言った回答
……一応弁解して言うが、この願いが叶うとは思わなかった
よく女体化なんて言葉があるが、現実的に男が女になることの難しさは現代医学が代弁してくれる
だから俺のウケ狙いが多々あった願いが叶うなんて思わなかった
しかも、それがベタ中のベタの夢落ち、という手法を使われて叶うなんて、まったくもって思わなかった
「ホントに、雹で女だったのか?」
「……多分、というか、や、顔は見てないけど、多分雹だと思う」
「……」
真っ白い夢
雹の色の夢
しかし何とも、雹らしくない雹だった
いつもは高い位置でのポニーティルを髪下ろしてたし、顔だって小顔だった(つーか元の雹も結構顔小さいけど)
体だって細身で、あんな筋肉隆々じゃないけどそれなりにしっかりとした体で、胸の方はやや慎ましやかだったけど、それでも細い手首とかは魅力的だった
そして何より、リアルではありえない雹の微笑が、俺の腕の中にあったのだ
まるで、真っ白な雪のようだ、と俺は思った
「あー絶対疲れてるんだ、俺、ここんとこ忙しかったし、今日だって疲れてたんだぜ、体育の授業あったし、……ジャスティスってさ体育の授業も半端ねーんだよ、うん、内容はただのマラソンでもあのだだっぴろい校庭広いどれだけ走らせんだってんだ」
「……苦労してんな」
「うん、でさ、そんな日に限って生徒会あるし、一年でも九朗遅いしさ、春日ちゃんも遅い、雹は勿論で、俺が一番暇人なんだよ、知ってる?あの広い生徒会室で一人って寂しくて退屈なんだぜ?やっぱ疲れてて、つーか俺ジャスティス向いてねぇ、立海が恋しいよ」
「………」
「まぁ置いといて、俺眠たくてさ、でも授業中寝るわけにはいかねぇだろ?またソファーで寝ちゃっってさ、この前雹が上に乗っかってて大変だったのに、九朗にだって誤解されたのに、また寝たさ、ああ!」
俺は突っ伏した顔を横に向けて叫んだ
しかし、その場違いな憤りは直ぐに沈下して俺は重いため息を吐く
「んで、起きたらコレだ」
「……」
「……勘弁してくれよって思った」
―――もし、魔法が使えたら
今まで意識なんてしなかった
どれだけ一緒にいても、傍にいても
好きという言葉も簡単に言えた
でも、それは相手が男とわかっていたからだ
男だから、自分にリミッターがかかる、そう思っていた
――雹を、女の子にして
俺は小さな雹をを夢の中で抱き締めた
腕の中に閉じ込めるように、ずっと長く
背中に"彼女"の細い腕が回るのを感じて、想いが溢れた
おかげというか、幸いというか、顔をじっくり眺める事は叶わなかった
―――笑顔が、みたい
ホラ、女の子って柔らかいでしょ?だったら表情も柔らかくなるかなって
記憶の中のあのデートの時、俺は愛しい委員長ちゃんに笑った
俺はそれほどに想った"彼"と"彼女"の笑顔を、見なかった
体が、思いについていってくれなかったからだ
「それで雹の声で起きて、死ぬほど驚いた、スッゲーどきどきした」
「それはドキドキのレベルちがうくねぇ?」
「違うだろうが、動悸は動悸だ、……でもな、なんかそん時、俺はときめきと間違えそうになっちゃったんだよ、……恐いくらいに雹にドキドキした」
ああー、と俺は息を出す
壁の時計が鳴る
まだ生徒会はやっているだろうか、やっていたらいいと思う
ここは雹の家だ、雹はここに帰ってくる
雹の帰る家なのだ
「俺的に雹はライクだった、好きだし、雹が傍にいてくれって言ったから傍にいたもんね」
「委員長とかと較べたら?」
「今迷ってんだよ……、今まで考えた事無かったよ、ほら、心の中に天秤あるじゃん、今まで俺は何を選ぶにしても片方に女の子、もう片方に別の女の子、つりあっちゃうんだよね、価値も同じだし、どっちも最上級だから選べない、たまに男が乗ったりするけど、乗せるまでも無く女の子優先なのよ、俺」
「……」
俺はううん、と唸る
例えば、目の前で伐と委員長ちゃんが溺れているとしよう
俺は迷わず委員長ちゃんを先に助ける
……まぁ伐泳げそうだし、大丈夫だろう
しかしそんな事抜きにしても伐には悪いが委員長ちゃんを選ぶ、相手がひなたちゃんやティファニーちゃんでも俺は伐を見捨てる
でも、もしも溺れている相手が伐ではなく雹なら俺はどうするだろう
「……前に恭介さんがね『キミは女の子全てを平等に愛する事が出来る、反対に女の子がキミを傷つけてもキミは許すだろうね』って、言ったんだ、……まぁ何となく合ってるけど」
「……」
「『でも、心の奥底から、好意でも同情でもキスしたり性行為に及ぶような、直接的な行動をすることは一生は出来ないだろう』って」
「……遠慮ねぇなぁ、恭介」
「俺だって自分がちょっと行き過ぎたフェミニズムの持ち主くらいわかるよ?でもね、ああ、そうだなぁって納得しちゃうのよ」
「……」
女性は綺麗
女性は美しい
女性は清い
出来るなら、ずっと、綺麗なままでいて欲しい
物憂いに沈む女性も美しいが輝くように笑顔を振り撒く女性が好きだ
それを自ら汚すなんて、考えられない
考えたくない
「俺、雹が大切だよ、大好きだ、強くて毒舌で心痛で夢はでっかくファンタジーで世間知らず、意固地で頑固で、優しくて甘くて頭良いくせに馬鹿で、恐ろしいくらい脆くて、危ないトコも全部」
「……」
「だから、傍にいるんだけど、多分もう駄目だわ、居ちゃ行けねぇよ」
始めは支えたかった
脆く、ボロボロで、それでも一人で立つ雹の隣にいたいと思った
雹もそれを願った、俺だって願ってる
でも、依存は違うんじゃないかと思っている
べったりと、雹にくっついて甘えてる
雹の仕事を、未来を、夢を、邪魔している
雹が俺の毒なら良い、でも、万が一、俺が雹の毒になったなら
それは、耐えられないと思う
「雹を、好きになったかもしれない」
「……」
「まだ、好きじゃなくても、きっとこれから好きになる、だったら駄目だ」
俺は苦笑する
伐は笑わない
そうやって、少しシリアスで不機嫌な顔をしてたら、少しだけ、ほんの少しだけ雹に似てる、――そんな事を思った
「元々俺は実家はなれて一人暮らしだし、前にもアニキがさっさと立海に戻って来いって言ってたし、そろそろだと思う」
「………」
「厳しいジャスティスに付いていくより、そこそこ厳しい立海で赤也とうまーくふざけてる方が良いし、無理なら他の学校行くさ」
「………」
「てゆーかそろそろだと思ってたしな、ホラ、あの誕生日のとき、俺、あんな嬉しそうな雹の顔初めて見たもん」
「……そうか?俺には普通の顔に見えたけど」
「そうだよ、父親に義母親、弟に義弟、生徒会は九朗も役に立ってきたし、有望な春日ちゃんも入った、これから上手くやれる」
「………」
「雹がもう平気なら、俺は帰る、マンションも引き払うしジャスティスも辞める、実家に帰る」
「……雹は、何て言ってんだ」
「聞いてたのか?伐に話して今決めたんだよ」
「………」
「毒も行き過ぎれば、……つーか普通死ぬよ、毒なんて飲んだら」
俺はよっこいしょ、と今まで机に突っ伏していた上半身を上げる
目の前の伐は泣きそうな顔をしていた
「俺のせいか?」
「うーん、落ち着いたからかな?かなりパニくってたし、落ち着けてラッキーかな。はは千石さんを思い出すよ」
「……」
「最近、二人でいたいと思ってたよ、居たいって、雹の隣は俺しか駄目だって、そんな事思ってた、書類打ちも出来ないのに」
「……」
「やっぱ末期だ、雹の為に立海の生活捨てて、また雹の為に立海に戻っていく、雹は歩いていけるんだったら、俺がその脚を引っ張っちゃいけないんだよ、実力が無いくせに正義の味方気取りは良くない」
「……」
「まさか、天秤が壊されてたなんてね、一番が雹だったなんて知らなかった」
「……」
「知りたく、なかったな」
『キミは魔法を信じるか』
そんなもの勿論信じても良い、幽霊もUFOも超能力も宇宙人もツチノコもいつか起きる大地震だって、関係ないトコに存在してたらこっちに実害は無い
対岸の火事のように、実害さえなければ現実から切り離される
でも
もしも、もしも魔法が使えたら
キミは一体何を願う?
「夢が現実にならないことを祈るよ」
真っ白い夢、雹の夢
一面に空から穴だらけの俺の自尊心を貫く白の石
積もり積もったそれは、山のようになり、世界を造る
夢でさえ、望みの中でさえ、腕の中でさえ見ることの出来なかった彼の笑顔
優しい、それはきっと、雹が一人でいけるサインなのだろう
いや、元々雹は一人でいけたさ、俺が雹の隣にいるのはたまたまだし
それを、俺は願う
それじゃないと、俺がかわいそうだ
今までの全てが雹の足手まといにしかなっていないなんて
「ホントに雹だけのためか?」
「そう思ってる、まさか恐くなったから逃げるなんて言えるわけねぇじゃん」
「……」
「雹はすごいよ、すごいから恐い、凄すぎて恐い、飲み込まれそうだ、俺みたいな一般人なんて吹き飛ばすくらいスゴイ人だ」
「……」
「そんな奴の隣は、正直しんどい」
どろどろに、キミに溶かされるのは悪くなかった
むしろ、とても心地よかった
―――だからどうか
その毒が、キミに流れるその前に
キミの道を溶かしてしまう前に
―――柄になく、願ってしまう
一緒に居たいと思っていたのに
離れる事はないと、確信していたのに
「雹の足手まといだけにはなりたくねぇよ」
真っ白な夢
キミの夢
いつか降り積もって、今を埋めれば良い
彼は頭が良いし、それに今は一人じゃない
夢は夢のまま
現実はいつだって、地獄より性質が悪い
「だから、俺は逃げる」
「……」
「逃げたいんだ」
少しだけ呟いて、瞳を閉じる
一瞬にして覆い被さる闇
雹の白とは違う、真っ黒な闇
逃げたいと言ったばかりなのに、手を伸ばしたがる
俺はとっくの昔に毒(キミ)に犯されていた
end
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